食品用器具・容器包装の規制と最近の動向

山本基準審査課長

2月23日に開催された会員向けセミナーは厚生労働省から山本基準審査課長をお迎えし「食品用器具・容器包装の規制と最近の動向」のテーマで講演頂きました。奇しくも昨年の同月同日に開催されたのと同様のテーマのセミナーで説明された「食品用器具及び容器包装の規制あり方に関わる検討会中間とりまとめ」以降の本件の進捗・進展について説明頂きました。本稿は山本課長の許可を頂いた録音をベースに事務局が書き起こしたもので文責は事務局にあることを最初にお断りしておきます。(TF)

最初に

厚生労働省基準審査課長の山本でございます。本日は昨年に引き続き貴重な機会を頂きまして誠に有難うございます。昨年は私共からの情報発信もさることながら、懇親会で現場のナマの声を伺ったことが非常に参考になっております。本日も懇親会には担当スタッフも駆け付ける予定ですのでよろしくお願い申し上げます。日頃より食品安全行政には格別のご協力を頂き厚く御礼申し上げます。皆様の現場における日々の地道な取組の重要性は日頃より十分認識させて頂いております。本日のスライドは昨年のご説明させて頂いたところからスタートしその後の進捗についてお話しすることになりますので、重複する部分もありますがこのあたりは、駆け足でやらせて頂いて後半の質疑応答の部分も含めて本件のご説明をさせて頂けたらと考えております。

昨年からの動き

輸入食品届出件数の推移

さて昨年のセミナー実施時点からの動きを振り返ってみますと、昨年秋に国会においてTPP批准についての審議が行われました。無論TPPの条文自体に、私共が担当する食の安全に関するルールに変更を及ぼすものがあるわけではないのですが、TPPの成立によって想定されるグローバルな食品の流通によって受ける影響などについて連日国会でご質問を受け、食の安全・安心に関する関心の高さを再認識したわけでございます。ところがトランプ氏が米国大統領に当選し、米国のTPP脱退が視野に見えてくるという急激な状況の変化があり、秋から冬にかけては私共にとってとても「濃い」季節を送ることとなりました。ただ私共を取り巻く環境と果たすべき責務は変わっておりません。引き続き「必要な規制は行うが過剰な規制は行わない」立ち位置で、食品の安全に関する「目利き力」を上げ、環境の変化に対応して行きたいと考えております。輸入食品の数量は横ばいですが小口化による届け出件数の増加という傾向は変わっておりません。

基準作成

食品安全施策の基本的な枠組みのなかで消費者や事業者が食の安全の担い手であること、リスクコミュニケーションの重要性も不変です。
私共はこの枠組みのなかで基準作成を担当しているわけですが「納得できて合理的な基準」は最新の科学的知見を踏まえ、国際基準との整合性を確保した基準でなくてはなりません。またその実効性を担保するためには仕組みの最適化が求められますので、皆様が現場で行っている工程管理の各プロセスで本質的かつ合理的で最適な判断をできるための私たちの「目利き力」が試されているといっても過言ではないと思います。

中間取りまとめ

中間取りまとめ

平成24年から基準審査課長の下に「食品用器具及び容器包装の規制の在り方に関わる検討会」を立ち上げ議論して頂き平成27年6月に中間取りまとめを提出して頂きました。既に前回のご説明で触れた内容ですが簡単にご説明しておきたいと思います。当該検討会では中間取りまとめとしてPL制度の導入に向けての課題の整理や、当面実施可能で重要と考えられる施策についてとりまとめて頂きました。

行政としてはこれをベースにして本件に関して作業を進めて参りました。合成樹脂を例にとってその現状を取りまとめたものと、材質別の米国、EUのPL制度の対象の範囲の業界自主基準を比較したスライドです。また当面の施策とGMP的な位置付けとしての自主ガイドラインの検討と公表や関連情報の把握及び整理などの提言を頂いております。

食品器具及び容器包装の現状 当面の施策について

中間取りまとめ以降の動き

自主管理ガイドライン

これを受けて私共では中間取りまとめを厚生労働省ホームページで公開すると共に、自主管理ガイドラインについて学識経験者や業界の方々にもご参加頂き平成27年度の厚生労働科学研究費補助事業として実施致しました。

また食品等試験検査事業として国内関連事業者を対象にアンケート及び聞き取り調査を実施しております。個人的な感想を率直に申し上げると皆様よく取り組まれており、必要な情報を収集されていると感じました。詳細については、本日アンケート調査の結果についても、配布させて頂いておりますのでご参照頂ければと思います。厚生労働科学研究からは、合成樹脂を対象とした自主基準ガイドライン案を提案頂いております。本日ご出席の皆様には基本的なものかと存じますので、スライドの説明は割愛させて頂きますが、要点を申し上げると重要なのは、製品設計とバリューチェーンを通した情報提供やトレーサビリティーの確保であり、事業規模を考慮した自主基準の整備・発展及び効率的な管理がおこなわれるべきであるということ、また同様のコンセプトの民間認証等を十分に活用されるべきということあたりかと思います。ところで前回のご説明の時に厚生労働省として自主基準ガイドライン等を発出する前にパブリックコメントを行いますのでご協力をお願いしたいというご説明を致しました。具体的な実施時期は来年度の初め頃を目指しております。

新検討会について

新検討会について

パブリックコメントまでに少々時間を要している理由の一つに昨年8月からこの新検討会を立ち上げがございます。昨年6月の中間とりまとめを踏まえて具体的な仕組みを検討して頂いております。

この新委員会と中間とりまとめして頂いた委員会の違いですが、まず以前委員会が基準審査課に報告を上げて頂くという立ち位置だったのに比較して、新委員会が生活衛生・食品安全部長の下の検討会であること、また参加頂いている委員の方々も従来の安全衛生に関する学識経験者に加え、日本乳容器・機器協会を含む業界団体、関連企業、流通、食品企業、原材料メーカー、消費者団体、地方自治体から行政法の専門家の方まで幅広く参加して頂いて本年度内に報告頂きとりまとめ案のようなものを挙げて頂き、その後来年初めのパブリックコメントにつなげていきたいということです。

新検討会について

本日(2月23日)現在でまだ取りまとめ案が出来上がっているわけではありませんので、本日はまず途中経過のような形でその経緯をご説明し、委員会でおこなわれた報告や議論をご報告させて頂きます。
まず検討に当たっての論点として規制の在り方目指すべき方向性、言い換えれば安全性の向上と国際整合性の両方の観点から、PL制度を含めた規制のあり方とその目指すべき方向性はどうように考えるのかということ、そしてスライドに示されているPL制度を導入する場合の具体的な課題と対応が挙げられます。

論点のイメージを現状のフローに入れてみたのがこのスライドです。

新検討会について 新検討会について

PL制度に関連する情報提供

PL制度に関連する情報提供

ここからは背景情報を確認させて頂きたいと思います。まず輸入食品監視統計から項目別にみると、畜産食品・食品加工品から食品添加物までの「食品」が殆どを占め、容器包装はわずか0.3%に過ぎないのですが、忘れてはならないのはこれら「食品」にも容器包装は使用されているということです。

PL制度に関連する情報提供

平成17年から平成27年の10年間の器具・容器包装の届出件数及び輸入重量も傾向として右肩上がりで増加を続けています。

PL制度に関連する情報提供

少し古い調査ですが、日本の包装材料別の食品流通量を重量単位で示したものがこの円グラフでありまして、やはり合成樹脂の割合の高さがご理解頂けると思います。その中で現状のPL制度の導入状況を欧米中と比較してみるとこのようになります。

PL制度に関連する情報提供

諸外国との規制の比較をしてみますと日本のようなNLを採用してきた韓国、台湾、そしてASEANの一部にもPL導入に向けた動きが見られます。

PL制度に関連する情報提供

観点を変えて素材別の規制の比較を行ってみるとこの図となります。日本においては熱可塑性合成樹脂においては三衛協の自主基準によるPLが採用されています。また自主基準への適合性を証明する確認証明制度が利用されています。

PL制度に関連する情報提供

次に各国の規制の手法を「危害要因の排除」「GMP」「サプライチェーン」「トレーサビリティー」といった切り口でまとめてみたのがこのスライドです。

PL制度に関連する情報提供

米国、EU、日本そしてISO22000の規定を比較しております。法規制か業界団体の自主基準かという違いはあるにせよ構成そのものは類似しておりますが、法規制を含めた今後のありかたについて現在新委員会で討議頂いているわけです。
現行のNL制度の問題点として「安全性に懸念がある」物質のみ評価をして規格基準を設定するので対応が遅くなり、新規開物質に対応できない。また輸入品やアウトサイダーついても対応できずまた世界的なPL移行への傾向のなかで日本におけるNL制度は国際整合性からも指摘を受ける可能性が高いとされております。

PL制度に関連する情報提供

一方で対象物質や手法についてはその採用の経緯が大きく影響しているということをお聞きしております。昭和40年頃にまず米国でPLが採用され、その後EUの個別のいくつかの国で採用され始めたのですが、日本(三衛協)の自主基準においてはその対象物質が米国と比較的類似しており、これに対して中国はEUに類似していると言われているようです。詳細はスライドをご参照頂きたいと思います。

これをもう少し絞り込んで日本・米国と欧州の状況の比較という形にしたのが次のスライドです。いずれにしてもキーワードは「使いやすく」、「管理しやすく」、「チェックしやすい」ことではないかなと思います。
FDAとEUのPL制度には原材料管理を基本とした添加量管理と最終製品における溶出量管理の違いがあります。日本国内でもどちらかがよいという議論があることは存じあげており、本日も皆様から本件についてコメントを頂けたら有難いと思っておりますが、私はその視点は「管理の最適化」ではないかと思います。
合成樹脂の多層材に関する食品接触層・非接触層の定義についてはPLを採用している米国・EU・中国と日本(三衛協の自主基準)は比較的類似しておりますが、日本の食品衛生法はやや異なった定義をしております。

PL制度に関連する情報提供 PL制度に関連する情報提供

PL制度に関連する情報提供

食品接触物質の安全性評価についてですが、我が国では、容器包装に関しては所謂、データパッケージが確立していると言えません。まず食品への溶出濃度を見定めた上で、溶出濃度に応じた毒性試験を実施するという現状の欧米や三衛協の手法を踏まえながら、安全性評価を所轄しております食品安全委員会と連携して整理して行きたいと思います。

PL制度に関連する情報提供

このスライドは欧米当局の審査体制を示したものですが、実は日本現在2名しかおりませんので比較になりません。このあたりの対応も考えていかなくてはいけないと思います。

PL制度に関連する情報提供

情報伝達についていえば、前から申し上げているように、基本は「川上が川下に必要な製品に関する情報を伝える」ということになるのですが、川上の製造者の方、例えばポリマーの製造事業者は、製造したものが食品事業者に使用されるか分からないということもあり得るわけです。このことからもPLの導入とは単なるPL規制導入だけではなくこれに伴う仕組みづくりが必要になるということがご理解いただけると思います。
その意味で三衛協の自主基準に伴って行われている、確認証明制度やEUにおける事業者の適合宣言書のシステムは詳細な制度設計の際の検討材料となりえると考えております。また現行の食品衛生法3条一項に明記されている、食品事業者に努力義務規定を具体的にもう一歩前に進めるということも可能だと思われます。

PL制度に関連する情報提供

EUのGMPは英文で見ますとシンプルで当たり前のことが明記されています。つまり食品衛生法での適用はシンプルなものとし、メリハリの利いた管理とガイドラインの活用で対応は十分に可能と思われます。

PL制度に関連する情報提供

こちらのスライドは地方自治体の器具・容器包装の事業者の把握状況を調査したものですが、これらの状況を踏まえて、仕組みとしての自治体の位置づけも検討して参ります。

PL制度に関連する情報提供

最後に平成26年度の監視指導結果ですが、無論導入後の立ち入りチェック等のあり方も検討されなくてはいけませんが、基本は今までご説明してきた確認証明や適合宣言書的なシステムを活用し、PL制度はPLを導入することだけではなく、これに関連するルールの適用方法も検討を進めていくという視点で進めていくべきものと思います。

ご清聴ありがとうございました。