昨年12月12日に初めての試みとして開催された理事・監事懇談会は多数の理事・監事の出席を頂き成功裡に終了しましたが、同日来賓として講演頂いた厚生労働省道野監視安全課長の講演録を掲載させて頂きます。なおこの講演録は道野課長のご了解を頂いた当日の録音から書き起こしたもので、文責は事務局にあることを最初にお断りしておきます。また当日は脱脂濃縮乳のたんぱく質量調整、成分規格等の改正、乳中のアフラトキシンM1規制等の興味深いご説明もありましたが、紙面の関係もありHACCP関連に絞った記述にさせて頂いております。(TF)
初めに
HACCPについてですが、今日のテーマになっております「普及促進」の大きな目標のひとつとなっております中小事業者の方々に「どうやってわかりやすくHACCPを説明しご理解頂くか」ということが現在の我々の大きな課題のひとつとなっているわけです。ご存知のように乳業界においては、20年程前に開始されたHACCP等を要件とする任意の承認制度である総合衛生管理製造過程に関する取組も早く、食品業界全体のなかでも先進的でありましたので、乳業の皆様には地域等でHACCPについてその経験を生かし、HACCPの有用性のPR等の役割を果たして頂けないだろうかと感じているところです。特に中小事業者の方々の導入率は約30%と言われてはおりますが、私自身もかなりひいき目の数字ではないかと感じておりまして、これからご説明する具体的な普及促進対策を進めさせて頂いているわけです。
HACCPとは
ご存知のこととは思いますが、HACCPはコーデックスで定めた7原則12手順によって進めることとされております。ただ中小事業者の方々にとっては、これが逆にハードルを高くしている面もあるようでして、特に手順1のHACCPチームを作るというのが中小事業者の方々においてはなかなか難しいようです。また原則1の危害要因とはなんぞやということが良く理解できないということも課題のようです。まずHACCPは中小事業者にとって「自分を守る」ために「自ら作成して実行する」システムであるということを従業員の方々にご理解頂くことが肝要だと思います。そこでHACCPを導入することで事業者サイドにとってこんなメリットがありますということもPRさせて頂いているわけです。ただこれらのメリットはHACCPを導入して初めて実感できるというあたりが頭の痛いところでもあります。
グローバルなHACCPの導入状況
海外におけるHACCPの導入の動きですが、アプローチの違いはありますが、原則的に義務付けを開始あるいは法令化したEUや米国などの赤で色づけされたグループ、義務付けを予定して関係法令を改正予定の黄色グループと比較すると、本件についてG20のなかでも未だ模索中の日本はかなり出遅れているということが言えます。
カロリーベースで4割の総合食料自給率に留まり、残りの6割を輸入に頼っている日本にとって輸入食品の安全確保は非常に重要であることは言うまでもありません。自由貿易の原則を定めたWTO/SPS協定に定められた「輸入品に対して、科学的根拠なくして自国の規制よりも厳しい規制を適用してはならない」といういわゆる内外無差別の原則から、国内におけるHACCPの導入なしに輸出国に対してHACCPによる衛生管理を求めていくことはできないことは既にご存知のことと思います。また最近大筋合意したTPPの影響も食肉の分野などでは見逃せません。
また一方で現在政府が推進している成長戦略のなかで重要な部分を占めている輸出促進の大きな柱となっている農林水産物・食品においては、日本再興戦略で2012年実績の輸出額4,500億円から2030年には5兆円の実現を目指すという目標が定められており、その達成のためには輸出対象国の安全基準に対応するHACCPの導入が必須であることもご理解頂けると存じます。
管理運営基準について
先程大枠の説明のなかでふれた「HACCPによる衛生管理基準の設定」ですが、平成26年5月に改定致しました「食品事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」と併せて各地方自治体で条例改正がほぼ終了し、HACCP導入型基準の設定により食品事業者等の従来の管理運営基準とHACCP導入型の選択が可能となっていることは既報の通りです。
導入状況と支援策
こういった状況のなかで日本におけるHACCPの導入状況実態ですが、農林水産省が行った調査によれば平成26年度において1-50億円未満の中小規模層で34%、100億円以上の大手層で88%となっていますが、厚生労働省が平成26年12月末に行ったHACCPの普及・導入支援のための実態調査によれば導入及び導入予定を含めて21.4%となっており、当該調査の回答率が36%であることを勘案すると更なる普及促進活動が必要であると思われます。
そのため支援策としては日本の食品等事業者は中小事業者がかなりの部分を占めているという観点から、①導入に前向きな事業者やニーズが高い業種に対する助言等の支援(HACCP自主点検票、HACCP確認票等)、②消費者や流通・販売業界も含め、HACCPに対する本質的な理解・関心の醸成、③コーデックスの柔軟性の考え方も踏まえた事業者の導入負担の軽減(地域連携HACCP導入実証事業等)④HACCP導入の取組に関する認知度向上のための支援(HACCPチャレンジ事業等)、⑤食品産業全体で推進する必要性の共有、等の施策の有機的な組み合わせで支援を進めて参ります。これらはまだ開始されたばかりのものも多く、過去の20年来の経緯を振り返るとまだ困難な点もあるかとは存じますが「わかりやすくて導入しやすいHACCP」を目指し今後も支援を続けて参りたいと存じます。