顧問 青島 靖次

基準への参画 -1-

容器包装の変化は牛乳関係のみではなく、清涼飲料水の容器にも見え始めてきた。

昭和五十五年七月二日、日本経済新聞に「プラスチックボトル 炭酸飲料やビールにも」と題する記事が掲載された。当時日本における清涼飲料水の容器はびん装が主流であったが、「炭酸飲料やビールのボトルの常識が変わる。薄くてペラペラのくせに、圧力に強く落としても割れないプラスチックボトルが登場して、ガラスびんや金属かんを脅かしている。今のところまだ米国や欧州が中心だが、日本にも間もなくプラスチックボトルが上陸してくる可能性は高い。今米国でコーラボトルとして『軽くて割れない』をキャチフレーズにいわゆるポリエステル樹脂の一種であるPETボトルが爆発的に売れている。飲料水の容器が、ガラスびんやアルミ罐から、プラスチックに変わる『ボトル革命』の主役として、専門家が注目している」という要旨だった。

ところが、そのプラスチックボトルは、日本ではまだ清涼飲料水に使えない。当時、食品衛生法に基づく厚生省の告示で、清涼飲料水に使えるプラスチックはポリエチレンだけで、醤油や食用油などの容器には、一部PETが使われているものの、清涼飲料水であるコーラやサイダーには認められていなかった。この告示は昭和三十四年に出たもので、当時はプラスチック容器と言えばポリエチレンぐらいしかなかったために、基準ができていなかったと思われる。  

こういった状況下で厚生省食品衛生課より、「清涼飲料水の規格基準」(容器包装・キャップも含む)に関連して問い合わせがあった。特に、牛乳キャップを付けたガラス瓶に収められている清涼飲料水の種類・年間数量と、清涼飲料水用キャップの強度試験法について報告を求められた。
直ちに協会が会員に清涼飲料水用途の紙キャップの種類・年間数量の報告を求めたところ、果汁入り清涼飲料の種類にはリンゴ、オレンジ、トマト、イチゴ、ファンシードリンク、ソフトドリンク等があり、年間数量は約一億五千万枚に上った。
同時に、その要請に基づき既に昭和三十七年四月に制定されていた「ガラスびん用紙のふた規格及びその説明書」に基づいて試験検査をしていること食品衛生課に報告した。

昭和五十五年十一月二十一日。清涼飲料水容器包装衛生協議会下打ち合わせ会が社団法人日本包装技術協会の主催で開催された。冒頭、日本包装技術協会の桑原康長氏から、清涼飲料水容器包装衛生協議会の設立についてとそれまでの経緯について説明があった。
それによると設立の趣旨は、厚生省食品衛生課が行った各団体へ調査依頼の結果によると、清涼飲料水容器包装に関する現行の法規が、「既に錆びついており時代にふさわしくない」ので見直したいということになった。業界、消費者、行政共に齟齬なく円滑に改制定したいが、厚生省としては窓口の一本化が望ましいので、協議会設立の運びとなったということであった。続いて、各団体からの経過、現状が報告された。

清涼飲料水容器包装委員会
既に厚生省とは、数回打ち合わせを行っているが、今後清涼飲料水容器包装衛生協議会に一本化して要望書を提出して欲しいとのことであった。
日本製缶協会
厚生省より十月中旬ころ電話があり、現在法改正(容器)の検討のため、清涼飲料水容器包装衛生協議会に委員一名を送るようにとの話があった。
日本製壜協会 
厚生省より十月中旬ころ電話で、びん、缶等を含め容器について現在法改正の検討のため、清涼飲料水容器包装衛生協議会に委員一名を送るようにとの話があった。
全国乳栓容器協会
厚生省より十月十四日電話、清涼飲料水容器の紙栓等について説明報告の要請があり、現状を報告した。清涼飲料水容器包装衛生協議会と協議して具体的な成案を協議会から提出されたいとのことであった。
日本王冠コルク工業連合会
厚生省より十月二十八日厚生省担当官に面会、キャップ、蓋等の種類について質問を受ける。清涼飲料水容器包装衛生協議会に委員一名を送るようにとの話があった。

以上の通り各団体から厚生省の要請があったうえでこの会合に参加したことが報告され、清涼飲料水容器包装衛生協議会の設立が決議された。次に、協議会の性格付け、規約案を審議して、協議会側と厚生省側の意向の整合する部分で、窓口業務を限定することで一致した。その結果、いずれも社団法人日本包装技術協会の桑原康長氏を委員長、楠田洋氏を事務局長、越山了一氏を事務局長補佐に選任した。
尚、同日十一月二十一日開催の協議会は、下打ち合わせ会議とし、次回を正式第一回とすることにした。
なお、当日の出席団体及び出席者は以下の通りで あった。
社団法人日本包装技術協会 桑原康長(常務理事技術委員長)、同 楠田洋(事務局長)、同 越山了一(消費者包装研究室長)、日本製缶協会 山崎力(専務理事)、同 小松美博(衛生専門委員会幹事)、日本製壜協会 森田滋(専務理事)、社団法人全国乳栓容器協会 内田重治(事務局長)、同 島崎邦夫(技術委員長)、同 石原昌具(技術副委員長)、日本王冠コルク工業連合会 小池由敏(事務局)、同 森文雄(同)、同 村上真(同)、社団法人全国清涼飲料工業会清涼飲料水容器包装委員会 藤森俊彦(委員長)、同 野原繁三(委員)

基準への参画 -2-

昭和五十五年十二月一日、第一回清涼飲料水容器包装衛生協議会が開催された。

1) 桑原委員長挨拶要旨
厚生省関係者、業界の代表者が集まって第一回の開催となった。清涼飲料水用容器規格基準の見直しを伺い、これに関わる者として各方面で円滑な改正がなされ、日本の清涼飲料水用容器の仕様として、現状を踏まえ、あるべき姿に持って行くべく関係者に集まって頂いた。プラスチックは既に委員会が発足し検討を始めており、その他の団体は団体によって若干進み具合が違うが、当協議会がその進捗に役に立つように努力したい。

2) 厚生省挨拶要旨
清涼飲料水用容器企画基準の技術的問題についてそれぞれ専門的立場から検討を加え、とりまとめる役割を果たす当該協議会の発足は大変喜ばしい。設立に努力された(社)日本包装技術協会、関係各団体の関係者にも御礼申し上げる。規格基準の見直しをびん、かん、乳栓等で検討している。現状では試験法などについて合理的でないもの、実態に則してないものもあり、一方でプラスチックを含め廃棄物処理も社会的関心事となっており、厚生省でも重要な側面と考えている。業界各位の要望を把握し、又省側の見解を述べる良い機会を与えてもらい有難い。

3) 厚生省説明
厚生省として改正方向について若干検討してきた。
食品衛生法に基づく成分規格、製造基準がありその製造基準の中に容器が盛り込まれ、基準に合った容器を用いることになっている。 びん、かん、プラスチック容器、紙製容器の四種について改正を検討中である。
(1) 合成樹脂容器 材質 食品衛生法容器包装規格基準について検討。
(2) 合成樹脂について物理的強度試験の見直しを行う予定。
(3) ガラスびん、王冠等、蓋材質の種類、王冠の密封条件の解釈、王冠用の内面樹脂、ガラスびんの密封強度、ガラスびんの紙栓の密封、ガラスびんの洗浄殺菌等について検討したい。
(4) 金属かんの内面塗料について溶質基準及び材質について基準化したい。
(5) プラスチック容器の廃棄物処理について、厚生省環境整備課とも連絡協議して今後進めたいので各個別容器の関係者もこの課と話し合いの機会を持ってもらえば喜ばしい。
(6) 清涼飲料水の製品についても現在検討中、試験法の整備、炭酸ガスのガス圧規制、PHと殺菌温度等である。最終的には食品衛生協会が窓口でとりまとめいている。

以上を踏まえて、協議会メンバーとの質疑、意見交換が行われた

4) 質疑、意見
(協議会)びんだけでなく共同で作り上げる必要 がある。案が出来た時は、協議会で検 討、了解を得て厚生省へ出すのか、直 接だすのか。
(厚生省)直接だと協議会の存在意義がない、細 かい点は厚生省と打ち合わせ、大筋は 協議会から関係業界の総意として出し てもらえば有難い。
(協議会)内面塗料のほかにも細かいものが含ま れているか。
(厚生省)そうである。
(協議会)大体のメドは何時ごろか。
(厚生省)時期設定は決めにくい、方向が固まった 段階では早く食品衛生調査会で審議して もらいたいと考えている、それぞれの進 捗状況を見ながら決めてゆきたい。

5) (各業界の進捗状況)
かん 
十月中旬に厚生省から連絡があり、金属容器の見直しをやりたい、四三四号規制のデータを出すよう要請され十月末に提出した。その際、製缶協会の状況説明をし、溶出試験データを提出した。かんの内面塗料基準、密封試験法の規格基準として、JISにあるがこれについては厚生省と協議したい。   

びん  
これから各業界とも相談しながら進めて行きたい。密栓密封は乳栓、王冠などとの組み合わせの事でどの程度だと納得されるのか検討したい。乳栓、王冠がメインで、びんが協力という形になるか、ワンウエイびん、外側印刷、被膜をするものもあり、今後どうするか検討していく事となる。   

乳栓  
乳栓については案を持っている、製びん、厚生省と連絡を取って進めたい。     紙容器についてはプラスチックの方で既にある程度やってもらっている。   

王冠
合成樹脂パッキングは四三四号規制している、密封、コルク、プラスチックについても既にやっている、その他のもの王冠のJISに準拠したものでやっているが、明確にして各業界の委員と協議してまとめたい。   

プラスチック
十月中旬に厚生省担当官と協議した。樹脂限定、物理的強度については、業界としてまた協議会としてもどうするか検討したい。   

全清飲
製品については、四年を経過している がなかなか進捗していない。十二月上 旬にまとめたいが、経過試験があるの で、その期間も必要である。

以上、各業界の意見が出されたが、問題等が多岐にわたるので技術的な細部は厚生省担当官と直接協議することになった。但し最終的には協議会からコンセンサスを得たものを提出することとした。尚、厚生省としては、学識経験者、業界の意見等も聞いて整備して行きたいと思っているとのことだった。協議会としては、各業界で細部を詰めてもらうため、協議会開催の頻度を月1回ぐらいと考えて行くことにした。

こうして清涼飲料水の容器包装に関する告示改正についての協議がスタートした。

基準への参画 -3-

第一回清涼飲料水用容器包装衛生協議会の結果をもって各関係団体は、それぞれの検討課題を持ち帰り内部検討に入った。当協会については紙栓の生産量、密封試験方法等の説明を求められたが、協会は、既に規定されている紙栓の自主基準に従い生産量、各種試験結果を厚生省担当官に説明した。

昭和五十六年一月二十日、同三月二日の協議会までに、各関係団体は詳細について厚生省担当官と協議を重ねた。各業界からは試料、データを提供しこれらを基に原案の作成が進められた審議内容の途中結果について、担当官より関係団体別に説明されたが、当会に関するものを以下に示す。

牛乳瓶に紙キャップを施したものについては
☆ 紙の蓋では自主基準で安全性が担保されているので、試験を免除する方向で検討。
☆ 低温流通の実態を考慮し、試験法を外し、10℃以下で保存することで安全性を担保することを考慮。
ガラス瓶が透明であることについては
☆ ガラス瓶の洗浄殺菌効果の判定上、リサイクルされるものは透明であることが外せないワンウエイについてははずしてもよいとも考える。
合成樹脂容器、合成樹脂加工紙製容器、アルミ箔容器について
☆ 密封試験法は検討続行中。
☆ アルミ箔容器で蓋材が食品に接触するもの乳等省令を適用し、物理強度試験を加えた。
☆ 強度試験
ヒートシールしたもの、内圧強度試験、耐圧縮試験、ヒートシール以外の方法で密封されたもの、漏水試験。
☆ 持続耐圧試験同様、中が減圧になる場合のものは難航、検討中。

上記のように説明され、まとまり次第食品衛生調査会に提出する予定であるとのことだった。

その後各団体別に厚生省側にその都度連絡を取っていたが、昭和五十六年四月六日開催の協議会で今までの経過と、今後の進め方が討議された。

厚生省担当官からの経過説明では、
☆ 試験成績などを提出してもらい、あと残る問題点は僅かになった。規格基準として食品調査会にかける試料はできる状態にある。
☆ 環境水道部が中心となりプラボトル研究会を発足させて、第一回会合を三月二三日に開催した。主に環境問題を検討し、三回の審議で完了予定。
☆ 調査会にかける時期は、プラボトル研究会で意見交換、方向性が示された段階と考える。清涼飲料水の中身製品については、日本食品衛生協会を通じ、清涼飲料メーカーと連絡をとりながら、改定案を示したが、二、三の事項を残しており、今一度詰めて行く。
☆ 清涼飲料そのものの規格基準改正の内容について
(1) 清涼飲料水そのもの
A 成分規格
イ 最近は天然着色が多い→沈殿、混濁 を認める
ロ 重金属含有量規制 試験法→機器分 析にする
 (砒素、鉛、カドミウム、アンチモン、 錫)
B 製造基準
○ 現状に整合した殺菌方法に改正
○ pHにより殺菌温度区分 4,5未満、
 4,5以上→4,0を境とする
 4,0以下 65℃×10分 同等
  以上
 4,0以上 85℃×30分  同 等以上
○ 炭酸飲料
現在は殺菌不要→ 無果汁の炭酸飲料でガス圧1kg以 下については要殺菌
果汁入り、乳酸入り→殺菌を義務付ける
殺菌記録 すべて義務(6ヶ月間保 存)
C 保存基準
紙栓をつけたガラス瓶入り清涼飲料→ 10℃以下の保存を義務づける
(2) 原料用果汁
a 成分規格
清涼飲料水と同様 重金属含有量の 規則(砒素、鉛、カドミウム、錫)
大腸菌群 陰性
b 製造基準
衛生的な取り扱いについて(一般規 定)
以上はまだ完全に固まったものではない。主な問題点は作業終了後厚生省側で整理、調査会にかける準備を進める。学識経験者と折衝の段階で問題点があれば協議会事務局へ連絡する。尚、今後の本協議会の開催については、調査会にかける前の最終確認(省側として出す案)、調査会終わったあと答申の説明(基準案づくりについては厚生省が担当し、細目で必要があればそれぞれの団体と相談したい)、告示施行期日を決める段階、の三回が必要と思う、とのことだった。

その後、昭和五十六年五月十四日及び十二月二日に協議会が開催され、厚生省担当官より清涼飲料水の容器包装規格概要が説明された。十二月十四日には、食品衛生調査会食品規格部会より、清涼飲料水の規格基準について、調査審議を行った結果が「清涼飲料水の規格基準改正について(審議結果報告)」として食品衛生調査会に報告された。

その結果、翌年、昭和五十七年二月十六日、食品衛生法施行規則(昭和二十三年厚生省令第二十三号)及び食品、添加物等の規格基準(昭和三十四年厚生省告示第三七〇号)の一部が、それぞれ厚生省令第四号及び厚生省告示第二十号をもって改正された。次いで二月二十七日には厚生省環境衛生局長から各都道府県知事、政令市市長及び特別区区長あてに改正省令と告示の運用について通知された。
これを受けて、三月十二日に東京、霞が関の飯野ホールと、三月二十三日に大阪、大阪府中小企業会館ホールの二か所で、清涼飲料水容器包装衛生協議会の参画団体共催で、「清涼飲料水の容器包装・器具及び容器包装に関する厚生省告示改正について」の説明会が開催された。三カ年に及ぶ協議会審議の集大成といえる説明会であった。

当協会は乳容器にとどまらず清涼飲料水の分野でも、関連団体の一員として厚生省告示改正に貢献することができた。この成果をもって、次なる当協会の課題である、自主基準作成に進むこととなるのである。