本号から一般社団法人日本乳業協会藤原常務理事の「HACCP適用と食品の安全性確保」を掲載致します。厚生労働省ご在職中から本件に幅広い知見をお持ちの藤原常務理事に事務局からお願いしたところご快諾頂いたものです。
HACCP 適用と食品の安全性確保①
1.HACCP とは
「HACCP」という言葉をはじめて聞いたとき、さて何のことかと思われたかもしれません。 HACCP は、ハサップ、ハセップ、ハシップともいうとされており、「Hazard Analysis and Critical Control Point」の頭字語です。筆者の経験では米国人の発音は「ハサップ」と聞こえ、英国人はそのまま「エイチエーシーシーピー」と言っていた過去の記憶があります。発音の仕方にこれといった決まりがあるわけではありませんが、本稿をお読みの方がその言葉を聞けば、ご自身が関わる何らかの事業等において、具体的な姿、形を伴って実践されているあるイメージをお持ちだと思います。厚生労働省の通知等 での説明は「危害分析・重要管理点方式(食品の安全性を確保する上で重要な危害の原因となる物質及び当該危害が発生するおそれのある工程の特定、評価及び管理を行う衛生管理方式)」としています。また、HACCP 関連の用語について、様々な翻訳語がこれまでに記載されており、もとの英語の意味を的確に把握すればあまり混乱しないと思いますが、日本語として訳されたものそれぞれに、結果として捉え方やニュアンスの違いがあるのかもしれません。ここでは、これまで主に行政において使用されている用語でHACCP の経緯や意味するところを説明したいと思います。
2.HACCP の成立ち
よく知られていることですが、HACCP は、有人宇宙飛行計画において宇宙食の微生物学的な安全性を保証するために米国で開発され、1973年に米国 FDA(食品医薬品局)の低酸性缶詰食品のGMP規則にその概念が盛り込まれました。
85年に米国科学アカデミーからHACCPシステムの適用を法的に要求すること、食品の微生物基準委員会の設立などが米国政府に提言され、89 年には NACMCF(米国微生物基準諮問委員会)によって、HACCP の指針がはじめて体系 的なものとして示されました。NACMCF は 92年に指針の一次改訂を行い、これが原案となって、翌年のコーデックス(FAO/WHO 合同食品規格計画)委員会による最初の「HACCP システム適用のためのガイドライン(以下、ガイドラインという。)」策定に至りました。
米国 FDA は、低酸性缶詰食品によるボツリヌス中毒の発生を防止する目的で食品製造のいわゆるGMP 規制の一環としてHACCP の概念を取り入れた時期以降、食品衛生の規制手段として HACCP を活用しています。一方、国際的な動きとして、95 年の WTO(世界貿易機関)発足に向けて、衛生規制の整合化が現実的課題となった時期に、コーデックス委員会は国際流通する各種食品の基準化、衛生管理等の平準化により貿易の円滑化と食品安全の向上を目指していた背景からHACCP システムによる衛生管理の普及が有効とされ、ガイドラインを WTO 発足前に採択し、国際的にもその適用が推奨されたためと考えられます。
3.HACCP 用語の理解
食品製造現場での HACCP の適用や運用について関係者で話題にするとき、その立場の相違からか、HACCP の理解や捉え方に差がみられ、 議論がうまくかみ合わなかった経験があります。よくいわれるのは、「HACCP」が目的化していて具体的な衛生管理の向上にどの程度貢献しているか不明確、システムや設備等の維持管理にそれなりの経費を要するなどです。以下に、厚生労働省作成の「HACCP入門のための手引書」の記載を引用しながら、関連用語をいくつか説明するのでHACCPの考え方を理解していただければと思います。
・ 一般的衛生管理プログラム(Prerequisite Programs)
HACCPシステムを効果的に機能させるための前提となる食品取扱施設の衛生管理プログラム。「一般的」という用語は、HACCPプランが対象とする特定食品の衛生管理ではなく、その施設で取り扱われる食品共通の衛生確保の方法を意図したもの。管理項目としては、地方自治体の条例で定める「施設基準」、「管理運営基準」が該当します。
・危害要因(Hazard)
健康に悪影響(危害)をもたらす原因となる可能性のある食品中の物質又は食品の状態。
「Hazard」のニュアンスが難しいところですが、食品が原因となる健康被害には、何らかの原因の存在と発生に至る過程があり、それらの結果として発生するものです。そのような原因と過程が存在する可能性があるか、ないかと考えるようにします。また、従来から何らかの衛生管理が実施されていて、製品にほとんど問題が発生しない状況であれば、ある工程での衛生管理水準の各種変動の要因を考えて、問題発生の可能性があるか検討するようにします。
有害な微生物、化学物質、硬質異物などの生物学的、化学的又は物理的な要因を幅広く考えますが、製品を摂食する時点で健康に悪影響をもたらす可能性を検討します。生産時や製造工程、流通販売時に原因等を除去できるのであれば、そのような管理を厳重に行う必要があるので危害分析に役立つ情報収集が必要です。
・危害分析(Hazard Analysis)
危害とその発生条件について情報を収集し、評価することにより、原料の生産から製造加工及び流通を経て消費に至るまでの過程における食品中に含まれる潜在的な危害要因を、その危害要因の起こりやすさや起こった場合の重篤性を含めて明らかにし、さらに各々の危害要因に対する管理手段を明らかにすること。危害要因分析ともいう。危害分析のプロセスと内容によって、HACCP適用の成否が決まるとも考えられます。極端にいえば、同一工場であっても危害要因は日々変動していると考えられます。一般的衛生管理プログラムでは、そのような小幅で頻繁な変動があったとしても、結果として衛生管理の安定性と製品の安全性は十分担保できる内容となっていると想定します。このように考えれば、一般的衛生管理では吸収しきれない危害要因の管理手段がCCPの候補となることが想定できます。また、突発的なトラブル発生で管理不備になるような事態も考えられるので、例えば、停電の発生などはあらかじめ想定して、対応方法を準備しておく必要があります。
・重要管理点(Critical Control Point: CCP)
特に厳重に管理する必要があり、かつ、危害の発生を防止するために、食品中の危害要因を予防若しくは除去、又はそれを許容水準まで低減するために必須な段階。必須管理点ともいう。「危害分析」に記載したとおり、危害要因とその管理手段を明確にする過程でCCPも特定されていくのが自然な流れです。危害分析の過程に習熟すれば、特に問題なくCCPが特定されると考えますが、担当者に対しては、食品の衛生管理に関する知識経験を前提として、そのような訓練をあらかじめ実施しておくことが重要であると思います。
次回は、食品衛生法における取組みを中心に説明します。
HACCP 適用と食品の安全性確保②
4.食品衛生法における取組み
・食品衛生法に基づく総合衛生管理製造過程承認制度の動向
今回は、食品衛生法に規定された総合衛生管理製造過程承認制度(以下、「承認制度」という。)として運用された1995年から約10年間のHACCPに関連する動向について、①から④に示した事項を説明します。
食品衛生法等のHACCP関連事項 | 関連する内容(国際機関の動向を含む。) | |
① | 95年5月:食品衛生法等の一部改正 | (95年1月WTO(世界貿易機関)の設立) ・食品の製造基準の特例として、承認制度を新たに規定 |
② | 96年5月:食品衛生法施行令、乳等省令等の一部改正(承認制度の施行) 97~99年:承認制度の品目指定を追加 |
・乳・乳製品(牛乳、加工乳、クリーム、乳飲料、発酵乳等)及び食肉製品を承認制度の対象となる食品と規定、承認の基準、手続等を定めた。その後、容器包装詰加圧加熱食品、魚肉練り製品、清涼飲料水を対象品目と規定 (97年コーデックス委員会、食品衛生の一般原則を改訂) |
③ | 00~01年:承認施設における事故等が数件発生(特に、加工乳等による黄色ブドウ球菌エンテロトキシンA型の大規模食中毒事件) | ・食中毒事件の原因究明を実施し、承認制度実施要領の改訂により審査等を厳格化 ・01年から厚生労働省地方厚生局職員による承認施設の監視指導を強化 |
④ | 02~03年:脱脂粉乳の製造基準を新たに規定し、承認制度の品目指定(04年4月から施行) 03年5月:食品衛生法等の一部改正 04年2月:承認の更新制度(有効期間3年)施行 |
(03年コーデックス委員会、ガイドラインを改訂) ・食品安全基本法制定に伴い、食品衛生法等を改正、承認制度について食中毒事件の経緯等から承認の更新制度を新たに導入し、食中毒の原因となった脱脂粉乳を対象食品と規定 |
① HACCPを適用した衛生管理の方法が95年の改正で食品衛生法にはじめて盛り込まれました。これは、営業者の自主的な衛生管理向上の取組みに関する任意の承認申請に応じて審査され、厚生大臣(当時)が施設ごと、食品ごとに承認するものです。加えて、省令・告示に規定された一律の製造基準によらず、製造工程の各段階において安全性に配慮した多様な方法による食品製造が可能とされました。同時期のWTO発足に伴い、食品衛生関連基準はコーデックス委員会が定める国際流通のための基準、指針等に整合化されることとなり、93年に規定されたHACCPシステム適用のためのガイドライン(以下、「ガイドライン」という。)に基づいて国際的にもHACCP導入が進められる状況となりました。
② 当時の状況から、厚生省、地方自治体及び関係する営業者における取組みはHACCPの導入、普及、推奨を意図したものとなり、承認申請の対象となった乳・乳製品及び食肉製品の製造工場では急速なテンポでHACCP導入が進められました。さらに、97~99年にはより一層の普及拡大のため対象品目が順次拡大されました。一方、第22回コーデックス総会において、食品衛生の一般原則及びその付属文書としてガイドライン(97年の改訂版)が採択され、食品の生産から製造加工を経て消費に至るまで、HACCPの前提となる一般的な衛生管理事項を規定するともに、HACCPシステムの適用が推奨されました。
③ 承認施設である乳業工場において、00年6月加工乳等による食中毒事件が発生し、患者数は13,420人に達し過去に例をみない大規模食中毒となりなした。食中毒事件の原因究明が実施され、承認制度実施要領の改訂、承認施設の監視指導の強化等が図られました。また、このほかにも00~01年にかけて承認施設において数件の事件等が発生し、承認された総合衛生管理製造過程による製造方法が確実に実施していない事例が見受けられました。
④ 食中毒事件の原因となった脱脂粉乳には、製造基準が新たに規定され、04年から承認制度の対象品目に追加されました。また、03年には食品安全基本法が制定され食品安全委員会が発足し食品衛生法もこれに伴って改正されました。承認制度については、事件等の教訓から承認後の運用実態に問題がみられた点が指摘され、承認の更新制度(有効期間3年)を新たに規定し04年2月に施行されました。第26回コーデックス総会においては、HACCP導入について発展途上国から求められてきた小規模、発展性の少ない企業に対応してガイドラインの一部が改正(2003年版)されました。
・総合衛生管理製造過程の承認状況推移
総合衛生管理製造過程の承認状況について、以下の平成26年末現在の厚生労働省発表資料によると承認された施設数は合計510、品目の件数は739(複数の品目について承認を取得している施設は、1施設として計上)であり、全国7か所の地方厚生局が管轄の自治体と連携して承認審査等を実施しています。施設数、件数とも乳・乳製品が全体の約6割弱を占めており、乳・乳製品の製造におけるHACCP適用において、この承認制度が大きな役割を果たしていることが分かります。
また、以下に示した図により承認の更新制度が開始された平成16から25年の各年末の承認施設数の推移をみますと、合計では、566→510、乳は、161→147、乳製品は182→152と減少しています。これは、承認施設の工場統廃合等により承認を継続できなかったものや更新時期に継続の申請をしなかったことなどが原因として考えられます。また、05年以降は食品安全認証の分野にISO、FSSC等の民間認証が新たに登場してきたことも施設数減少の要因として考えられます。
次回は、HACCPの適用に不可欠な危害分析とその理解と運用に必要となる教育訓練の方法について説明します。
HACCP 適用と食品の安全性確保③
・危害要因分析の進め方
危害要因分析においては、以下に例示した危害要因分析表(牛乳について日本乳業協会生産技術部にて作成したものを簡略化して記載)を参照しながら、下表の左から右に順次工程ごとに作業を進めていく方法が一般的です。対象とする製品の原材料の受入から最終製品の出荷まで、すべての工程(1)ごとに、最終製品を消費者が食べた際に発生する可能性のある重要な生物的、化学的及び物理的な危害要因(2)をまず明らかにします。
危害要因分析表(例)製品の名称:牛乳(130℃・2秒殺菌)
次に、危害要因について、実際に発生する可能性(頻度)と発生したときの健康への影響の程度を考慮して(3)に「○」又は「×」を記載します。「×」について、例えば、病原微生物の増殖や汚染の可能性について製品自体ではなく、使用する製造機器や施設設備、温度、環境等を適切に維持管理することで食品の安全性が確保できるのであれば、その内容を(4)に記載し、特に厳重に管理する必要性はないと判断して危害要因分析を終了します。そうではなく、過去実際に何らかの品質衛生上の問題が発生しており、より厳しく管理する必要性がある場合は「○」を記載します。原則として、製品内部の汚染や増殖等が可能性として考えられるので、(4)にその内容を記載して(5)にその工程での管理手段を記載します。発生要因に対応する管理手段がその工程より後の工程に存在する場合は、その工程を(5)に記載します。
例として示した危害要因分析表では、工程No1の「生乳の受入」では原料乳の「病原微生物の存在」、「抗生物質の存在」を(3)で○としていますが、病原微生物は、加熱殺菌工程で厳重に管理されることからここでは通常の受入検査等の実施を行いCCPとはしていません。一方抗生物質は、検査結果で適否を判断し、その後の工程で対応する工程はなく、検出された抗生物質が製品に残留した場合は大きな問題となることからCCP1としました。加熱殺菌工程は、殺菌温度の低下が起こる可能性があり殺菌不良を招くことからCCP2としています。このように、この表を用いて危害要因分析を実施しながら工程ごとに一般的衛生管理の実施状況を確認することができ、同時に重要な管理事項に絞り込んでCCPかどうかを検討します。CCPとされた管理事項についてCCPごとにHACCPプランを作成します。このような危害要因分析の考え方とHACCPプラン作成を理解して実践するためには、対象となる製品の品質衛生に関する十分な知識と訓練が必要とされています。
・教育訓練の重要性
米国では、水産食品や食肉処理のHACCP適用の義務化に伴う人材育成に必要となる講習の教材、講習プログラム等が提示されており、我が国においても米国の講習内容を参考に食品関連企業内外の専門家養成や衛生行政に従事する国、自治体の職員を対象とした教育訓練が継続的に実施されてきました。これらの講習では、HACCPの基礎的な理解と危害要因分析、HACCPプラン作成のための講義、グループ演習、演習成果の発表討論を実施し、参加者の総合的な能力開発を図る内容となっており、このため日程は3日間程度必要とされています。特にこのプログラムでは、講義による基礎知識修得に加えてグループ演習における参加者の協働作業と演習成果の発表討論を通じた双方向のコミュニケーション及びプレゼンテーションの能力開発も重要な要素であり、HACCPの理解と実践のために不可欠なものとなっています。
さらに、食品の安全性確保の向上、食中毒等事故の効果的な未然防止のためには、生産、製造、流通、消費の各段階での食品関連事業者全般と消費者を含むHACCP適用の理解醸成が重要となります。このような食品全体に関係する動きにおいて、常に社会状況に対応した食品安全の動向、危害要因の変遷などを随時把握しながら継続的に運営の見直しを図ることが必要であり、このような側面もHACCPの普及促進には含まれていることを理解いただきたいと思います。次回は、HACCPに関する最近の動向と今後の課題等について説明します。
HACCP 適用と食品の安全性確保④
・我が国におけるHACCP関連の法改正のまとめ
① 2003年5月に制定された「食品安全基本法」において、食品の安全性確保のために必要な措置が、国民の健康保護が最も重要であるという基本的認識の下に講じられ、行わなければならないと規定され、農林水産物の生産から食品の販売に至る一連の国の内外における食品供給の工程での影響が食品の安全性に影響を及ぼすことから、必要な措置は、食品供給工程の各段階において適切に講じることとされました。
この規定は、コーデックスの食品衛生の一般原則に規定された考え方をそのまま取り入れたものであり、さらに、同法第5条では、必要な措置が食品の安全性確保に関する国際的動向及び国民の意見に十分配慮しつつ科学的知見に基づいて講じられることで、食品の摂取による健康への悪影響が未然に防止されるようにすることを旨として行うことと規定されました。このことは食品の安全性確保に必要となる種々の対策の具体化には、HACCP適用の基本的な考え方を応用して講じるべきものであると考えられます。
② また、食品安全基本法第8条では、①に示した食品の安全性確保の基本理念にのっとり、食品関連事業者自らが食品の安全性確保について第一義的責任を有していることを認識し、必要な措置を食品供給工程の各段階において適切に講じる責務を有するとされ、その事業活動を行うに当たっては、食品その他の物に関する正確かつ適切な情報の提供に努め、国又は地方公共団体が実施する食品の安全性確保に関する施策に協力する責務を有すると規定されています。
③ 2003年5月に一部改正された「食品衛生法」においても、食品安全基本法の内容に対応した形で食品等事業者の責務として第3条が新たに規定されました。食品等事業者は、自らの責任において販売食品等の安全性の確保に関する知識及び技術の習得、原材料の安全性の確保、自主検査の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならないこと、販売食品等又はその原材料の販売を行った者の名称その他必要な情報に関する記録を作成し、これを保存するよう努めなければならないこと、さらに危害の発生防止のため、これら記録の国、都道府県等への提供、危害発生の原因となった販売食品等の廃棄その他の必要な措置を適確かつ迅速に講ずるよう努めなければならないこととされました。
この食品等事業者の責務において、具体的な衛生管理の手段と方法を明文化して指定するものではないものの食品安全基本法の基本理念からみて、コーデックスの食品衛生の一般原則とHACCPの適用を念頭に置いた規定と捉えられ、同法第50条第2項及び第3項において、都道府県等が営業の施設に関して公衆衛生上講ずべき措置の基準を条例で定め、営業者はこの基準(管理運営基準)が定められたときはこれを遵守しなければならないとされており、その内容として食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)が2004年2月の通知において示されています。
・HACCPに関連する最近の行政動向
① 第二次安部政権の成長戦略として、2013年6月に「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」が閣議決定され、この中で食品の輸出促進等による需要の拡大を図ることとされています。特にオリンピック、パラリンピック東京大会開催を見据えた経済成長の加速のため、2020年に日本の農林水産物、食品の輸出額1兆円を達成し、2014年6月の「日本再興戦略」改訂2014においては、新たに2030年に輸出額5兆円の実現を目指すこととされています。食品輸出には相手先となる国の要求条件の履行が不可欠なことから、HACCPの導入、イスラム圏ではさらにハラール認証が必要とされています。
② 厚生労働省においては、2013年9月から「食品製造におけるHACCPによる工程管理の普及のための検討会」が開催されHACCP普及のための今後の施策の方向性について議論されました。同年12月の中間とりまとめにおいて、食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)改正し、従来型基準に加えて、コーデックスのHACCPガイドラインに基づく基準(HACCP導入型基準)を新たに規定することとされました。2014年5月、国内の食品事業者に対し、将来的なHACCPによる工程管理の義務化を見据えつつ、HACCPの段階的な導入を図る観点から同指針が改正され通知されました。食品等事業者が実施すべき管理運営基準はHACCP導入型基準又は従来型基準の選択性とされましたが、①の成長戦略の観点からも、HACCPが未導入の食品関係施設にあっては、段階的かつ速やかなHACCP導入を進めていくことが求められています。また、都道府県等においては2015年現在、HACCP導入型基準の条例化が進められており2016年3月までにほとんどの自治体で改正条例が施行される予定となっています。中間とりまとめ以降も同検討会は議論を継続し、我が国におけるHACCPの更なる普及方策について提言をまとめています。詳細については、以下のホームページを参照してください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syokuhin.html?tid=151985
また、2015年7月にはHACCP普及推進連絡協議会が開催され、検討会の提言を進める方策が示されていることから以下のページで詳細を確認してください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000093102.html
・残された課題についての個人的な見解
① 2003年以降改訂されていないコーデックス食品衛生の一般原則とその付属文書であるHACCP適用のためのガイドラインについて、2015年から5年程度で改訂が議論される予定があります。ISO22000などで規定されている食品安全マネジメントシステムと一般的衛生管理、HACCPとの関連性がより明確化される方向で検討されるようです。我が国においてもHACCPの義務化を見据えた取組が本格的に開始されたこともあり、我が国の食品業界が国際的な動向に周回遅れとならないよう、特にここ5年間がHACCPの普及促進に重要な時期となると確信しています。
② 5年後となる2020年の時点で、食品関連事業者のすべてがHACCPによる衛生管理があたりまえと思えるような雰囲気を醸成していくことが目標であると思います。特に、乳・乳製品製造業においては、総合衛生管理製造過程承認制度の開始当初から積極的にHACCP導入に取り組んできた実績から、現状では他の食品製造業に比べてHACCPの導入率において先導していますが、HACCP未導入の施設にあっては、都道府県等の管理運営基準の改正を契機として導入に取り組まれることを期待します。各種支援や研修等は引き続き実施されているので、対象施設に対応した内容の支援を利用することが導入の近道であると思います。乳業界がこれまでのように継続的にHACCP導入のトップランナーであることで国民の信頼を維持するとともに、将来的な海外展開や輸出拡大に結びつく道であると考えています。
ご好評を頂いた「HACCP適用と食品の安全性確保」は本号で終了致します。藤原理事ありがとうございました。次回からは新たな連載が開始される予定です。ご期待下さい。(事務局)
藤原 真一郎(ふじわら しんいちろう)
昭和56年 帯広畜産大学大学院獣医学専攻修了、獣医師、
昭和58年 厚生省入省(環境衛生局食品衛生課)、
昭和61年 厚生省生活衛生局乳肉衛生課、
平成7年 同衛生専門官、
平成8年 国立公衆衛生院衛生獣医学部主任研究官、
平成14年 国立保健医療科学院研修企画部第二室長、
平成20年 東海北陸厚生局健康福祉部食品衛生課長、
平成23年 関東信越厚生局健康福祉部食品衛生課長、
平成26年 一般社団法人日本乳業協会 常務理事、一般社団法人日本乳容器・機器協会 理事