平成15年11月18日、厚生労働省食品安全部基準審査課担当官より以下のような依頼を受けた。「今般、乳等省令の容器の規格基準の様々な矛盾点について厚生労働科学研究費をもって国立衛生研究所室長を主査として見直し作業を考えており、短縮もあり得るが来年度より3年度を予定している。乳等の容器包装の関係であるので全国乳栓容器協会に見直し作業の協力をお願いしたい」というものであった。
詳細な内容は以下の通りである。
1. 費用等
厚生労働科学研究費にて支弁し国立衛生研究所室長に主査をお願いする予定である。会合の頻度は2~3カ月に1回程度、厚労省担当官は表舞台にはでず裏方を務める。
2.目的
現行乳等省令の文言及び書きぶりの見直し、国際基準等との整合性の観点から見直し。対象は容器包装のみとする。
3.期間
来年度より3ヶ年間を予定するも、短期間で見直しが終了する場合もある。
4.協会からの参加者
協会会員から3~4名程度しており自主基準、Q&A作成時の代表者等が候補となり得る。なお期間中、人事異動などで協力者変更は可能である。
5.厚生労働科学研究費事業適用について
過去に当協会「乳等容器包装の抗接着剤に関する自主基準」作成時に適用された例がある。
担当官としては容器包装に関する乳等省令見直しは、協会としても重要な事項である筈なので協力を要請したい。但しその結果の協会にとって善し悪しは現時点では分からない。いずれにせよ何らかの見直しは必要とされているとのことだった。その上で取り急ぎ取り纏めた上記内容にて検討し、早急に協会としての返事がほしいとのことだった。 この厚生労働省基準審査課の要請事項について、会長理事、副会長理事に連絡を取り、本件について打診した結果、全員より協力方進行するよう確認があり進捗させることとなった。
同11月20日、厚生労働省基準審査課担当官、及び担当係長に辻井芳彦技術委員長が同行して面談した。
1.打合せ目的
乳等省令中の容器包装の規格基準について厚生科学研究費をもって、国立医薬品食品衛生研究所室長を中心に見直しをすることになり厚生労働省の考え方、並びに室長との打ち合わせ時の留意事項などの確認のため訪問することとした。なお、国立医薬品食品衛生研究所への訪問は11月27日(木)16:00が予定されていた。
2.打合せ内容
1)乳等省令の容器包装の規格基準の全面的な改正ではなく、FDA等の日本以外を含めた他の規格との整合性の整理を行いたい。また試験項目を増やすことについては食品安全委員会の評価が必要となり、そのためにはその根拠となる安全確認試験資料等が必要となる。
2)今回の要請については厚生労働科学研究費にて容器包装の規格基準を検討するものであり、直ちに乳等省令に反映されるものではないが、研究期間は原則として3年度としたい。
3)室長は文言や書きぶりだけの改正では意味がないと考えており、抜本的に改正すべきとの意向のようだ。
4)乳等容器包装の規格基準は乳の物質特性により容器包装の含有物質の溶出するリスクが比較的高いと判断されており、また乳幼児も必要な栄養源として摂取することから、これが他の食品と比較して厳しい規格であってよいとの認識の理由となっている。
5)室長ご本人が乳等省令を熟知してないと言っておられるため、こちらから問題点を提起する必要がある。例えば試験法等については既に検討済みで、使用できない試薬等は明確になっているはずだ。耐圧について規格値が実際的な数値となっておらず、また合成樹脂の突き刺し強度は、樹脂の特性を勘案したものになっていないのではないか。
6)乳等省令の容器包装の規格基準にないものは告示370号に依ることとなるがこのあたりも明確にすべきではないか。
7)担当官からは器具についても検討して欲しいという要望があったが、協会の取り扱う範疇としてふさわしくないとの判断からお断りした。従って、室長に協会自体について十分説明し、協会としての検討範囲を明らかにする必要がでてきた。
8)発生する費用については、室長に請求は可能であるが、その判断は室長に委ねられているとのことだった。
9)担当官は室長と研究班会議で面談することになる。
上記の面談を通して厚生労働省と国立医薬食品衛生研究所との姿勢に相違が見られることが明らかとなったため、問題点の提起内容を含め協会が室長と調整していく必要が出てきた。また、大枠のなかで一例として、端面の問題を取り上げてはどうかという担当官のアドバイスもあり、協会内で問題提起の内容の検討が必要となった。一方で室長は一般紙器の蛍光染料問題にも関わっておられるので、食品容器包装全般に渡っての規格基準を考えておられると予想され、協会の取り扱う範囲を明確にしておく必要があると判断された。従って11月27日は協会自体について説明し、室長のご理解を得ることが主体となるとの想定となった。
同11月27日、青島事務局長・辻井芳彦技術委員長(日本紙パック)、多田國昭(東罐興業)、土屋暢一(日本テトラパック)の技術委員会のメンバーで、国立薬品食品衛生研究所室長を訪ねた。名刺交換の後、厚生労働省の要請を受けての訪問の趣旨を告げ、事務局長より協会の説明を開始したが室長が詳細は不要とし本題に入った。室長は協会に対し、良い印象をもっていないようだった。
1.乳等省令の容器包装に関する部分は厚生労働省と乳栓容器協会とで作ったという認識が、室長にあるようで協会で責任をもって改善すべきではないかという発言があった。協会としてはそのような権限がある筈もなく、実際は解釈上苦慮しており、Q&Aなどを作成した経緯などを懇切に説明して了解を得た。
平成18年1月5日号協会だよりより
(左)土屋氏 (右)辻井氏
2.室長としては先ず、文言やかきぶりのわかりにくさを解決すべきという認識で、その後に試験法等の検討が必要と考えているようだった。また、今回の問題は文言の表現や、整合性に問題があることから厚生労働科学研究に値する研究ではないと判断しているとのことだった。厚生労働科学研究はその研究成果を評価される場があるため、研究者としてテーマは慎重に選びたい。忙しいこともあり、一からの研究はできないので、基礎研究が出来た段階というのであれば引き受けられると考えとのことだった。
3.法令の改正により業界が安全性を担保すべきであり、海外の法令等も勉強し、改正に向けて行政に提言すべきで、そのための協力はおしまないとのことだった。
4.乳の物質特性から容器の含有物を溶出させやすいと考えられるので、特に安全性には留意が必要と考えている。したがって抽出試験の溶媒についても10%あるいは20%ぐらいのアルコールが適当と考えているとのことだった。
5.例外承認制度は乳等省令の実効性を歪めており、例外承認の内容が公開されていないことは問題ではないか。新しい規格であれば個別規格として明確にすべきではないかとの意見だった。
室長訪問は面談当初は先行きがどうなるか心配されたが、同行の技術委員の方々が誠意を尽くして説明・要請を行ったことで、最終的には和やかな雰囲気に変わり、主査就任は前向きに考えて頂けるのではないかとの感触に至った。
平成21年5月1日号協会だより
還暦祝いの多田氏
翌11月28日、厚生省基準審査課担当官に、協会技術委員が同行して訪問、上記内容を説明し、今後について検討した。分担研究者を探し、厚生労働科学研究での実施を考えるが、どうしてもだめな場合は別の方法も考える。但し、予算策定の関係で12月4日が限度となるとの判断に至った。一方で協会は乳等省令の見直しに関し問題点を整理し、その全容を明確にする作業を進め、また告示370号や海外の規格等も含め整合性を整理し、試験方法を別途検討する形にして、検討項目、分担を明確にしていく手順を進めることとなった。(次号へ続く)