本日は滝本課長からの講演予定でありましたが、国会等の都合があり私の方からお話をさせて戴きます。BSEと放射能についてと、私の現在担当している食品衛生分野の話もさせていただければと思います。
■BSEとは
平成13年 国内で最初のBSE発症例が見つかり10年が経過し、最新の科学的知見に基づき見直しを行うという事で食品安全委員会での評価を経て、見直しを進めている状況です。
復習となりますが、原因病原体としては異常プリオンタンパク質で、通常もっているプリオンタンパク質が異常化したものが原因とされております。伝達は異常プリオンタンパク質が接触して通常のプリオンタンパク質が異常化して行くことによると言われています。
感受性のある動物としては牛、水牛などで、
一番の特徴は潜伏期間が長いという事です。異常プリオンタンパク質を摂取しても行動の異常、運動の失調になる等には3年から7年掛かかります。実際の診断には、その異常プリオンタンパク質を検出することしかありません。感染ルートとしては、食肉処理の際の残渣からレンダリングされて得られる肉骨粉を飼料として牛に給与することが原因と言われております。一部では代替乳(牛に与える乳)も原因ではないかと言われています。人への感染としては vCJD(変異型クロイツフェルトヤコブ病)の原因ではないかと言われています。平成23年1月まで222人、そのうち英国では174人が発症しております。
そのBSEの原因となる異常プリオンが蓄積しやすい部位、牛の特定危険部位(SRM)としては 三叉神経節を含む脳、背根神経節を含むせき柱、脊髄、回腸遠位部となります。感染は、異常プリオンを牛が食べて腸から吸収され、神経経路である脊髄を通って、脳に届き脳がスポンジ状になると言われており、神経が沢山集まっているところは溜まり易い部位になります。
■国内BSE対策の概要
現状国内の対策ですが、生産段階からと畜、販売に至る各段階における規制により、食肉の安全性を確保する体制になっています。ひとつは肉骨粉を飼料として与える事の禁止、ここでは他の動物へのクロスコンタミネーション防止措置も図られています。生産段階で死亡した牛は農林水産省で死亡牛の検査、そして食肉に廻る場合にはと畜場での特定部位の除去をし、合わせてBSEの検査を行い、その上で食肉として販売される事になっております。BSEについては餌が原因である事から、問題となる餌を与えない、万が一、蓄積をしていてもその蓄積されやすい部位を除去するという2重・3重の安全性が確保されている状況になっています。
次に検査をした頭数とBSEの確認された頭数を表したものです。発症したものは21~40か月齢で2頭で、潜伏期間が長いという事で高月齢にならないと見つからないというところが読み取れます。特に21か月齢と23か月齢で見つかった2頭については変異型BSEと言われますが、食品安全委員会の評価で、この変異型BSEには感染実験で感染性が認められなかったとされております。
餌の規制が徹底された平成15年以降に出生した牛からはBSEの発生が認められていないというグラフです。
次に世界での状況を見たものです。一番多かったヨーロッパ全体で見ても現在は20頭未満。一番多かったその中でイギリスでも3頭の発生と、餌の規制の徹底により、その発生が押さえられて来ています。
■牛海綿状脳症対策の再評価に付いて
国内外での餌の規制と対策の結果、リスクが大きく下がっているのではないかとして、最新の科学的知見に基づき、国内検査体制、輸入条件といった対策全般の再評価を行うこととし、平成23年12月19日、食品安全委員会に諮問したものです。
次に諮問の内容ですが、1つは国内の措置として①検査対象月齢を、現行の「20か月齢」から「30か月齢」とした場合、②SRMの範囲を、現行の「全月齢」から「30か月齢超」に変更した場合の人の健康にどのような影響があるかのリスク評価の依頼。2つめは国境措置(米国、カナダ、フランス、オランダ、アイルランド及びポーランド)として①月齢制限を現行の規制閾値である「20か月齢」から「30か月齢」とした場合 、②SRMの範囲である頭部(扁桃を除く)、せき髄及びせき柱について、現行の「全月齢」から「30か月齢超」に変更した場合のリスク評価の依頼。更に3つ目として上記①及び②を終えた後、国際的な基準を踏まえ、上記①、②の月齢の規制閾値を引き上げた場合のリスク評価の依頼をした経緯になります。
昨年の10月22日 上記2つの答申(1次答申)があり、現行の検査対象を「20か月齢」から「30か月齢」とした場合、リスクの差は、あったとしても非常に小さく、人への健康影響は無視できるとしました。
SRMの範囲も「全月齢」の場合と「30か月齢超」の場合のリスクの差はあったとしても非常に小さく、人への健康影響は無視できるとの答申となりました。輸入に付いても同じで、リスクの差はあったとしても非常に小さく、人への健康影響は無視できるとなっております。
それから本年4月8日に戴いた答申(2次答申)ですが、3つ目の評価として①評価対象国における発生確認最低月齢、②EUにおけるBSE発生の実績月齢、③BSE感染牛脳組織の経口投与実験での異常プリオンたん白質検出される月齢-これは経口投与しても高齢にならないと発症しないとの内容です。④当然の事ながらBSEプリオンの摂取量が少ないほど潜伏期間が長くなる。と、いう知見から、国内措置としてと畜場における検査対象月齢を48か月齢(4歳)超に引き上げたとしても、人への健康影響は無視できる。との結論を戴いております。
前記に加え、OIE(国際獣疫事務局)の評価ですが、各国の状況評価をしています。OIEとして無視できるリスクの国としての主な評価条件として、①過去11年以内に自国内で生まれた牛でBSEの発生がないこと。がありますが、日本のBSE感染牛のうち、最後に生まれた牛は、平成14年1月13日生まれであり、平成25年1月14日に11年が経過している。②有効な飼料規制が2年以上実施されていること。これらについて日本はクリアしていますと言う事で、平成25年5月下旬のOIE総会において「無視できるリスク」の国に承認される見込みとなっております。
■国内措置の見直し
その様な状況を踏まえこれまで取ってきた対応ですが、最初の諮問の答申を受けて昨年10月、BSE検査の対象月齢を20か月齢超から30か月齢へ、2次答申を受けてBSE検査の対象月齢を30か月齢超から48か月齢へ引き上げるというものです。また、SRMの除去の対象に付きましては30か月齢超が対象となっております。
■全頭検査の見直し
省令上の検査対象の月齢を上げても、検査は自治体判断で実施されており、4月以前から対象は21か月齢以上で有りましたが、実際には現在も全頭検査が行われております。今回検査対象を48か月齢にしますが、更に税金で検査を続けると言う事は、1つは検査をしていない牛は危ないのではないかとの誤ったメッセージと成るのではないか、又一部で検査をしており、一方で検査をしていないところがあると、消費者に混乱を招くのではないかと言う事が懸念されます。
その様な混乱を防ぐ為、2次答申を受けたところで全自治体が一斉に見直す事が一番望ましいのではないかという事で、平成25年4月19日、BSE全頭検査一斉見直し(48か月齢以下の全頭検査を止める)を依頼する通知を、農林水産省と連携して地方自治体に出しております。しかしこれは国が通知を出したといっても自治体の判断に成りますので農水省の生産部局との連携も大事に成ってきます。
もうひとつ理由がありまして、30か月齢で切ると特に和牛の出荷月齢はグラフの様であり、検査されたものとされないものが混在する事となり、分別管理も難しい状況もあります。ここで48か月で区切ると国内の牛の大部分は検査無しで良い事となります。これで検査をする自治体の混乱も防げるものと考えております。この48か月齢以下ではBSE検査は実施不要であると、7月からを目途として関連各所へ説明をしているところです。
■SRMの除去
この特定危険部位の除去対象は30か月齢のまま変わりません。
■スケジュール
4月1日に30か月齢、7月1日を目途として48か月齢に変えるという事で準備を進めておりますが、4月25日より各地でのリスクコミュニケーションを進めております。
5月21日東京三田共用会議所でリスクコミュニケーションを行い、24日は神戸、そのほか各自治体主催の意見交換会にも我々も参加し、6月前半くらいまで続けて行きます。
6月上旬には 関係省令の改正(検査対象48か月齢)、補助金交付要綱の改正を行い、7月1日に関係省令の施行、補助金交付要綱の施行を行うスケジュールで進めて行く予定です。
■まとめ
このBSE問題は当初には混乱もありましたが、基本的には原因を考えると生産段階で飼料の管理が一番重要で、その管理がなされて来て、又と畜場でSRMが除去されるという事が長年実践されてきていて、現状の管理が適切に行われて行く限り発症する牛は見つからないだろうという事となります。
改めて強調しておきたい点として、生産段階での管理が大変重要で、そしてフードチェン全ての段階で各々の必要な措置を取る事が重要ということであり、本BSE問題はひとつの例ではないかと思います。