第6回定時社員総会終了後、厚生労働省生活衛生・食品安全部山本史基準審査課長の来賓特別講演が行われました。「食品用器具及び容器包装の規制に関する検討会取りまとめ(案)」のパブリックコメントが4月15日に終了し、平成30年 通常国会提出を視野に最終取りまとめが進んでいるこの時期に山本課長からのご講演は大変貴重なものとなりました。この講演録は山本課長のご許可を頂いて行った録音をベースに事務局が書き起こしたもので、文責は事務局にあることを最初にお断りしておきます。(TF)
最初に
只今ご紹介頂きました山本でございます。総会も無事に終了されたということでお慶び申し上げます。今年度は昨年度より色々な動きが加速される年度となるかと存じますが、日本乳容器・機器協会様また各会員企業様に引き続きご協力を賜り、各お立場からインプットよろしくお願い申し上げます。実は2月にお邪魔申し上げた時の会場のイメージでおりまして「それではざっくばらんに」とご説明を開始しようと思って参りましたが、今回は総会会場ということで重厚な雰囲気で、もくろみと異なり戸惑っておりますが説明を開始させて頂きたいと存じます。
経緯
2月の会員セミナーにおきまして一部説明させて頂きました昨年8月から食品安全部長の下の検討会として「食品用器具及び容器包装の規制に関する検討会」を立ち上げさせて頂きまして、幅広いお立場の方々にご参集頂いて、さらに広く各界からご説明やご意見を求め本件につき議論を進めてまいりました。
2月の会員セミナーでは、それまでの6回にわたる議論を踏まえたとりまとめの状況までご報告させて頂いたと存じます。その後3月1日に開催されました第7回検討会で「とりまとめ骨子(案)について」が決定され、これに伴って3月17日から4月15日までパブリックコメントを実施し、約70通のコメントを頂きました。5月25日には第8回の検討会が開催され、一件のご説明の後パブリックコメントを踏まえて議論を行って頂きました。その結果「とりまとめ(案)」に意見集約して頂きました。
主な論点
食品用器具容器包装と一言で申しましても原材料メーカーから、加工される材料メーカー、器具容器包装製造事業者、これを使用する食品製造販売事業者、流通関連事業者、そして購入される消費者と色々な方々がサプライチェーンに参画されており、器具容器包装、特にプラスチックを念頭におきますと、現状では上流からの開示がなければ下流に必要な情報が伝わらないモデルとなっているわけです。
ポジティブリスト導入の意味
こういったなかで国が規格基準を定めた物質についての使用制限(いわゆるネガティブリスト)と業界団体の自主管理の取組で安全性を確保するという従来のアプローチを吟味すると欧米では使用が禁止されている物質であっても個別に規格基準を定めないかぎり、直ちに規制することができないという点や近年の製品の多様化・輸入品の増加そして国際的な整合性を考慮して、使用が認められた物質以外は原則禁止するという(ポジティブリスト)の制度の導入による新たな制度設計の検討が必要であるという方向性を示して頂きました。但しその個別具体的な適用範囲の優先順位や手順等については、多面的な考慮をおこなった上で「物事がまわる仕組」としての設計が必要であると思われます。このあたりについてはかなりの部分が今後の検討に委ねられております。
具体的な枠組み
-制度の対象となる材質についてはまず合成樹脂を対象と致しますが、金属や紙等の合成樹脂以外の材質はその必要性や優先度を引き続き検討することとしております。
-制度の対象となる物質の範囲やリスク管理の方法(例えば添加量基準か溶出量基準か)についても色々なご意見がありましたが「国内や諸外国の状況を踏まえ引き続き検討する」としています。
-制度の対象範囲については食品接触部分を原則としていますが、いわゆる多層品の食品接触部分以外の層については、溶出・浸出し食品に混和するおそれがある場合は対象とするとしていますが、現状の多様な構成を考慮すると今後の検討も必要と思われます。
-リスク評価についていえば日本ではまだ容器包装のリスク評価基準が確立されておりませんのでその初期設定が必要と思われます。これは科学的合理的でかつ国際的な整合性を考慮したものでなければなりません。国際的な実績や国内の自主基準等を勘案すると容器包装からの溶出管理の妥当性が高いと思われますがこれについてはその方法の選択を含めて今後の検討に委ねられることになります。さりながら当然全てに対するスクラッチからの評価は現実的ではありませんので自主基準等で蓄積された使用実績や安全性根拠等は当然活用されなくてはならないと存じます。
-重金属等の毒性が顕著な物質、不純物等の非意図的な生成物(モノマーも該当すると思われます)については従来のネガティブリストによるリスク管理を維持してもよいとのとりまとめになっております。
-事業者間の情報伝達に関しては上流の事業者から情報提供や現行の業界団体による確認証明制度の活用した仕組み作りが必要になります。
-適正な製造管理について言えば食品の器具及び容器包装の事業者がいわゆるGMPを行うことを制度として位置づける必要があります。
―地方自治体の監視指導についていえばまずは当該事業者の地方自治体による把握のための届出の仕組みの検討が必要になります。
食品用器具・容器包装の安全性の確保策のイメージ(案)
大事なことは器具・容器包装の事業者が上流の事業者から必要な情報を受けてPL適合の原材料の調達を行い器具容器包装の製造を行うわけですが、その上で製造されたPL適合製品の用途(例えば温度、酸・アルカリ、電子レンジ適性等)についても適切に下流に伝達することで食品製造事業者、しいては消費者に必要な情報が正しく伝わっていくことであり、図にお示しするようなフローのイメージになると考えます。言い換えればPL適合の原材料を使用して製造されたPL適合の包装が、食品と適正に組み合わされてその機能が発揮されるように食品製造に使用される、またその食品製造側の管理手法としてはHACCPが活用されるといイメージです。無論今迄重要な役割を果たしてきた業界等の団体による自主的取組やISO等の民間認証は引き続き重要な役割を果たして行くと考えております。
パブリックコメントの内容
頂いたパブリックコメントについてお手元に資料も配布されているようですが、とても参考になるコメントが多く本日時間があれば、ひとつひとつを皆さんとお話したい位です。しかし時間の関係もありますので、その内容についてかいつまんで申し上げたいと思います。
-全体について
透明性の高い、公平なルールのもとに運用される制度であるべきという原則的なコメントから導入の速度について段階的な導入を求めるものがある一方「速やかにかつ確実な」実施を求めるというご意見もありました。また中小零細事業者への配慮や現行の三衛協の確認証明制度や業界団体の自主基準の活用を求めるコメントがありました。国際的な整合性を考え他国との相互承認も視野にいれるべきというコメントもありました。
-制度の対象
器具も対象として加えるべきとのご意見がありました。
-対象となる材質について
熱硬化性樹脂についても同時期にPL化すべきいうコメントがある一方で、熱可塑性プラスチックのような体制は熱硬化樹脂には難しいというコメントもありました。また合成樹脂が他の素材と比較して不当に不利な環境にならないように配慮すべきというコメントもありました。
-リスク管理すべき物質の範囲について
接着剤や食品包装用インキについてコメントがありましたがこのあたりについては今後の議論に委ねるものと考えています。
-PL制度の対象範囲について
食品接触面・非接触面の問題に関しては、非接触面を対象とすることについておしなべて慎重なコメントが多かったのですが、本件については今後の詳細な検討を行って行きたいと思います。
-リスク管理方法(溶出量管理・添加量管理)
圧倒的に添加量管理を支持するコメントが多かったのですが、こちらも今後の検討を慎重に進めて参りたいと存じます。
-新規物質のPL収載
欧米で行われているように国際整合しかつスピーディーな登録を可能にして欲しいといものや、申請者のみ一定期間の使用が認められる米国のFCN制度のような仕組みを検討して欲しいというコメントがありました。
-リスク評価について
国際整合性をもった評価方法を早く定めて欲しいというコメントが多くありました。ご存知のようにリスク評価につきましては、現在食品安全委員会が担当しておりますが厚生労働省もこれに協力して「科学的かつ合理的で応分の負担で」対応できるリスク評価方法の確立に取り組んで行きたいと考えております。またとりまとめのこの部分については検討会の議論を踏まえて一部修正が行われる予定です。
-既存物質の取扱
三衛協のポジティブリストやそれまでの使用実績、そして国際整合性を考慮して欲しいというコメントをかなりの数頂きました。
-事業者間の情報伝達の仕組みについて
秘密情報の保持に配慮し、事業者負担がない方法を検討して欲しい。第三者機関を介在させて直接開示を避けて欲しい。また証明書の記載内容の統一化を図って欲しいというコメントがかなりありました。注目すべきものとして下流側からの過度な情報提供にならないようにしてほしいというコメントがありました。
-適正な製造管理を担保するための仕組みについて
GMPの制度化にあたっては民間認証制度や自主基準の尊重や検討を考慮して欲しいというコメントが多くありました。
などなどその他の項目についても色々なコメントを頂いております。今後引き続き皆様からご意見を頂ければと思っております。
今後の予定
第8回検討会で議論された取りまとめ(案)を一部修正の上最終取りまとめを近く公表させて頂く予定です。これには先程お話し致しましたパブリックコメント及び回答を含んだものとなります。技術的な部分については別途検討を進めて参りますが、制度的な部分については、平成30年度通常国会提出を視野にHACCP制度と併せて本年6月以降の薬事・食品衛生審議会分科会において15年ぶりとなる食品衛生法の改正等を検討して頂く予定です。
自主管理ガイドライン
「中間取りまとめ」の方針に基づき厚生労働科学研究等の研究成果を踏まえ厚生労働省がガイドライン案を作成し5月24日より本案についてパブリックコメントを開始致しました。(~6月22日)皆様のコメントをお待ちしております。
駆け足なご説明になってしまいましたがご清聴頂き誠に有難うございました。