3月2日に開催された会員向けセミナーは厚生労働省から蟹江HACCP企画推進室長をお迎えし、今国会で審議中である食品衛生法の改正案についてご説明頂きました。本稿は蟹江室長のご許可を頂いた録音をベースに事務局が書き起こしたものであり、文責は事務局にあることを最初にお断りしておきます。なお食品用器具・容器包装のポジティブリスト化のご説明については過去のセミナー・説明会等と重複しておりますので省略させて頂きます。(TF)
初めに
ご紹介頂きました厚生労働省の蟹江でございます。私も乳担当の係長、専門官の時代には当協会の方々とご相談をさせて頂いた記憶がございます。本日は本来であるならば食品監視安全課長の道野がご説明差し上げるところでございますが、主題となっております食品衛生法の改正案につき法案の提出に向けて最終の調整作業に入っており、私が代わりにご説明させて頂きたいと思います。「食品衛生規制の見直しについて」というテーマを頂いておりますが、本日は端的に食品衛生法の改正案につきご説明させて頂きます。
改正の背景と趣旨
食品衛生法は最近では平成7年(1995年)そして平成15年(2003年)に改正されており、前者においては食品添加物のPL化、総合衛生管理製造過程承認制度の創設などが行われ、後者においては日本におけるBSEの発生という状況のなかで、食品安全基本法の成立によるリスク管理手法の導入と併せて、食品衛生法の目的条文が見直され、またパブリックコメントの導入が明記されるなど重要な改正でした。それから15年を経過しておりますがこの15年間の間には共働き世帯や65歳以上の夫婦のみ世帯の増加にみられる世帯構造の変化を背景に、調理食品、外食、中食の需要の増加など食のニーズの変化に加えて、食のグローバル化も進展するなど我国の食や食品を囲む状況は大きく変化しています。そういった中で、食中毒患者数が2万人前後下げ止まっており、また都道府県を超えた広域的な食中毒の発生、そしてEPAの締結などによる輸入食品の増加も見込まれております。こういった状況のなかで2020年の東京オリンピックや食品の輸出促進のためには国際標準と整合性のある食品衛生管理の導入が求められております。
なお今回の改正骨子の概要は以下の7項目となっています。
広域的な食中毒事案への対策強化
昨年夏に発生した食中毒事案においても複数の都県で同じ原因による事案が見られましたが、現在の食中毒対応の起点は144自治体となっており、広域食中毒事案の全体像が見えないまま、各自治体ベースで対応が進められると、混乱を招くおそれもあります。そこで地方厚生局レベルの7ブロックに広域連携協議会を設置し、平常時、緊急時共に関連する自治体間の連携を進めると共に、必要に応じて各ブロック間の連携も行い、法律事項以外でも遺伝子型配列の解析なども有効に活用できる体制を構築していきたいとするものです。
HACCPに沿った衛生管理の制度化
HACCPの導入に関しましては、かなりの時間をかけて検討してまいりました。傍聴された方もいらっしゃるかと存じますが「食品衛生管理の国際標準化に関する検討会」において平成28年3月から同年12月まで議論を頂きました。基本的には検討会の最終取りまとめに従って法制化が進められる予定です。まず原則として全ての食品等事業者(食品の製造、加工、調理、販売等)に衛生管理計画の策定が求められます。この事業者によって策定された衛生管理計画を事業者が実行し、記録を残し、必要に応じて見直しを行うことになります。従来と大きく異なる点は、自治体条例に委ねていた衛生管理の基準を事業者自身の衛生管理計画に置き換えることから、行政や認証団体が各事業者の計画等に対して承認や認証を行うことはないという点です。また事業者の規模等に考慮して、小規模事業者等には7原則に基づくいわゆる「HACCPに基づく衛生管理」そのままではなく、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を可能と致します。これは各業界団体が業種別に作成した手引書を参考に弾力化したアプローチを可能とするもので、手引書は既に10程度の業界団体の作成が終了しており、確認が終了後厚生労働省のホームページに掲載される予定です。一方で従来の民間認証基準(JFSやFSSC22000)とは(例えば従来の管理帳票をそのまま活用できるような形で)整合化を図り認証取得を有効に生かして頂きます。
これに加えてHACCP +αとして特に対米や対EU等への輸出を行っている事業者にはソフトの基準であるHACCPによる衛生管理に加えて、輸入国が求めるハード面の施設等の基準や追加的な要件(微生物検査や残留動物薬のモニタリング)等の輸出等に向けた衛生管理へのステップアップも可能となるスキームとしています。
地方自治体職員を対象とするHACCP指導者養成研修を実施し、食品衛生監視員の指導方法の平準化を図り、事業者が作成した衛生管理計画や記録の確認を通して自主的な衛生管理の取組状況の検証を可能とし、これにより立ち入り検査の効率化も可能になります。
HACCP(ハサップ)について
HACCP自体のご説明は省略致しますが、ここでは現在政府全体で推進しております農水産食品の輸出の促進の観点にふれておきたいと思います。現在先進国を中心にその義務化が行われておりますが、義務化が完了していない日本と義務化が行われている国間の輸出協議について言えば、食品衛生管理に関する 輸入国からの制度に関する質問の時点で、既にスタートラインでかなりのハンディキャップが生じる恐れがあります。言い換えればHACCPの義務化によって輸出協議が容易になる可能性があります。
なお衛生管理のあり方に関するHACCPの制度化前後の比較は図の通りです。
「健康食品」による健康被害への対応
現行の食品衛生法においても、いわゆる「健康食品」の健康被害については第6条による販売製造禁止を含めて対応は行われていますが、長期的な利用による被害の場合は因果関係の立証が困難であり、事業者への行政指導や消費者への注意喚起に依るものが結果的に多くなっています。
そこで法律事項として厚生労働大臣が指定する成分等を含有する食品を製造、販売する事業者に、死亡、重大な疾病等の健康被害情報の報告を制度化するとともに、告示改正で同成分を含有する製造管理(GMP)と原材料と製品の安全性確認を制度化するものです。なお当該指定は科学的な観点で整理されたものを薬事・食品衛生審議会や食品安全委員会における専門家の意見を聞き、パブリックコメント等を行った上で指定を行うものとします。
営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設
先程お話し致しましたように基本的に全ての食品等事業者に対して衛生管理計画の策定を求めるということになるわけですが、ではその対象となる食品等事業者の把握ができているかというと100%はできておりません。現行は政令で34業種が許可業種とされておりこの部分は把握されていますが、それ以外は全国ベースでの把握は行われておりません。そもそもこの許可制度の創設が昭和47年というまだコンビニという業態のない時代であったことから現行の業種区分が業態にそぐわないものになっていることや、各自治体の条例による許可と届出の業種も異なることもあり、またいわゆるソフトの管理は今回のHACCPの義務化で統一されるとしても施設等のハードの基準が自治体毎に異なるということでは、全国展開かつ流通を行っている事業者には非常に負担が大きくなります。そこでリスクに応じた判断基準による許可と届出制度による全国の食品等事業者をカバーする制度設計を行うとともに、ハードの施設等についても省令ベースの一定の基準設定の可能性を検討しています。
食品リコール情報報告制度について
いわゆる事業者の食品の自主回収に関する報告制度については、現在全国3分の2を超える都道府県で条例あるいはそれに準ずる要綱等で実施されており、基本的なルールはほぼ同じです。営業者(事業者)が食品衛生法違反又はそのおそれ探知して自主回収(リコール)を行い、リコール情報を都道府県に報告するというというものですが、現状ではその情報が集約されていないという問題点があります。そこで営業者からリコール情報が報告されシステムの入力された後厚生労働省への報告や国民に公表するものです。なお食品表示については現在食品衛生法ではなく、食品表示法に依り消費者庁が管理しておりますが消費者庁においても同様の対応を検討する予定です。
輸入食品の安全確保
現在は輸入食品についてもHACCPによる衛生管理の確認は行われていないわけですが、改正食品衛生法が成立しますと食肉、食鳥肉にはHACCPによる衛生管理が輸入要件となります。また衛生証明書添付義務が乳及び乳製品にも追加され、フグや生ガキの衛生証明書の添付が法定化されます。わが国の輸入食品はこのところ総重量は横ばいですが、届出数が増加しており、小口化や無在庫化の傾向が見られます。こういった状況のなかでHACCPによる衛生管理の確認は安全対策のなかで輸出国対策として機能していくものと思われます。
その他
法律の施行は公布から2年が予定されています。但し今回食中毒関連は危機管理に関するものであり公布から1年で施行を予定しています。HACCP関連も公布から2年ということで2020年の東京オリンピック・パラリンピックに照準を合わせますが小規模事業者等も含まれるため更に1年の経過措置が設けられる予定です。営業許可・届出及びリコール制度については厚生労働省がシステム開発を行うため公布から3年で施行予定です。食品衛生法の改正に伴い細かな点は政令や省令改正によって行われますので、その時期が参りましたらより詳細な説明も可能になるかと思います。本日はご清聴有難うございました。