平成25年度 第4回オープンセミナー(前半抄録)


第4回を迎える日本乳容器・機器協会オープンセミナーは昨年10月30日に東京コンファレンスセンターで開催されました。50年史映像版の上映、そして大市会長理事の挨拶に続き2名のゲストスピーカーが「食品について」にテーマに関して講演を行いました。今回は食生活ジャーナリストの会代表幹事佐藤達夫氏の講演をご報告したいと思います。なお本稿は了解を頂いて行った録音から書き起こしたもので文責は事務局にあることを申し添えます。 (事務局田中)


安全な食品の選び方・食べ方

最初に

ご丁寧なご紹介をして頂き有難うございました。今回「安全な食品の選び方・食べ方」をテーマにしていますが、私はいつも「安全な食品の選び方・食べ方」の文章を2行に分けるとするとどこで分けるか、という問題を出しています。よくあるのは「安全な食品の」で区切って安全な食品と安全でない食品があり、その「選び方・食べ方」をしようする意味になりますが、私がこれからお話しますのはこれではありません。私は「安全な」で分けます。「食品の選び方・食べ方」に安全な方法と安全でない方法があるという風に考えています。現在、多くの方が安心して食べられるものが少ないと思っていらっしゃる方が多いと思いますが、私はそうではなく日本で販売・配達されるもの、手に入る食品で安全でないもの何一つないと思っています。

私の母は今年92歳になりますが、「安心して食べられるものがひとつもない」といつも心配しています。日本人が長生きになったので、何歳になっても健康のことが気になるのと、世の中に食品の危険情報が氾濫しすぎているからだと思います。きょうは、氾濫しすぎている健康情報を、本当はどうなのかを科学的に検証してみたいと思います。

日本は世界一の長寿国

私たち日本人は大雑把に云って世界一長寿の国民と云って良いと思います。女性は平均寿命86歳を超えて、一時期は2位になった時もありましたが、現在世界一の長寿です。男性は4位か5位ですが平均寿命で79歳と、トータルで驚くべき長寿の国と云っていいと思います。平均寿命というのは零歳児の平均余命なのです。自分の歳の平均余命を知るには平均余命表をインターネット等で調べれば判ります。例えば60歳の人の平均余命は男性で23年ですので83歳となります。零歳児の平均余命に一番影響を与えるものは、まずは乳幼児の死亡率です。二番目は若者が大量に死ぬような戦争とかです。日本とか欧米先進国ではこのようなリスクが少ないので、医学が大きな要素となっています。但し医学が全てではなく、例えば日米の医学レベルを比較するとアメリカの方が幾分上となりますが、平均寿命ではアメリカは26位と先進国でも下の方になります。
次の要素として食習慣が挙がってきます。今、日本型食生活つまり昔ながらの和食に乳製品と果物と動物性タンパク質の入った食事が先進国の間でブームになっています。別にそれが欧米人にとって美味しいと云うわけではなく、おそらく健康に良いからブームになっていると思われます。日本食が健康に良いことの中には食習慣もありますが、当然食品もあります。安全な食品を食べている国でないと長生きが出来ない事から考えますと、日本人の食生活はかなり安全で健康に良いと考えます。

牛乳はウシの食べ物で、人間の食べ物じゃないの?

牛乳は非常に健康に良い食品ですが、なぜか10年に一度位の定期的と思えるように牛乳を叩く本が出てきます。2-3年前も「病気にならない生き方」というベストセラーで大腸外科の権威の方が書いた本です。その本の中で牛乳は良くないと書いてある部分の中、二つ気になったことがあります。ひとつは牛乳と骨粗鬆症の関係で、その本の中に紹介されている実験では、牛乳を良く飲むグループと牛乳をあまり飲まないグループを比較して、牛乳をあまりの飲まないグループの方が、骨が丈夫であったというデータを出しています。私はこれが間違いではないかと思って調べたのですが確かにアメリカにこのデータはありました。但し、世界中でこのような牛乳を飲んだ人とあまり飲まない人との比較したデータは山ほどあり、その多くは牛乳を飲む人の方が骨が丈夫になり、飲まない人は骨粗鬆症になりやすいとのデータです。
私はこの著者が書いた時点でこのように相反するデータがあることを知っていてこのように書いたとしたら、学者としてあるまじき態度だと思います。両方のデータを提示して著者として自分の支持するデータを論ずれば、あとは読者が判断しますので。しかしこのように片方のデータだけ紹介して、牛乳を飲んでも骨が丈夫にならないと書くのは如何なものなのかと思われます。一方でもし相反するデータがあること知らなかったとしたら、著者は不勉強も甚だしいと思われます。もうひとつは、「牛乳はそもそも牛の食べ物であり、人間は食べても役に立たない」という意味のことが書いてありますが、「牛乳は牛の赤ちゃんの食べ物であり、牛の赤ちゃん以外が食べても役に立たない」との論理となってしまいます。そうすると「人間が食べて役に立つのは母乳のみ」となってしまう理屈になります。そもそも人間の食べ物の殆どは他の生物体でありますが、牛乳は牛という人間に近い生物が創り出した食品であり、食べ物として非常に優れているのです。それを役に立たないと断じる程度のレベルの栄養学の知識しかない方の云うことは傾聴する必要がないと思われます。牛乳はもうコップ一杯分くらいは飲んだ方が良いという意見に私は賛成します。

食品添加物はそれを食べた人の健康を害するのか

食品の安全性について一般の主婦の方が気にする食品添加物の話をします。食品添加物は役割があって使っているもので、私は日本の場合はかなり厳しい法規制がありますので日本の食品添加物は健康を害さないと思っています。添加物の入ったある食品を偏って食べると健康を害するケースをあるのではと質問されますが、私は大量の添加物によって健康を害する前に添加物を含むその食品そのものの大量摂取により健康を害するケースが多いと思います。
例えばインスタントラーメンの添加物蓄積による健康被害の以前に、インスタントラーメンを大量に食べた事により栄養バランスが崩れて健康を害する方が先と思われます。農薬も添加物の次に健康に悪いと云われているものですが、日本の農薬に関する取締法規はかなり厳しいものです、数年前にネガティブリストからポシティブリストに変わったのですが、これによりさらに厳しくなりました。この日本の農薬に関する取締法規を守って作られた食べ物で健康を害することはないと思っています。ここでは農薬そのものが健康に良いか悪いかの議論ではなく、基準を遵守して作られた野菜を食べると健康を害するかの議論であるべきです。そういう観点でみると今の農薬は非常に厳しくチェックされていますので、無理して有機野菜や無農薬のものを食べる必要はないと思います。現在地球上は人口が増加を続け食べるものなくて死んでいく人が多いなか、農薬が使わないで農業で私たちは食べる物を確保できるのかということも一緒に考えていかないと、農薬自体の毒性を議論だけでは意味がないと思われます。

ガン予防の7カ条

がん予防の7か条ですが、多くの人は農薬や食品添加物ががんの原因になると恐れています。発がん性があるのではないかということです。がんの予防については多くの説がありますが、まともなものは相似しています。今お見せしているものは国立がんセンターの津金疫学部長によるもので、どういうものががんになりやすいのかということから来ています。ここにある7か条はデータが揃っているものです。

第1か条は「野菜を毎食たべ、果物を毎食たべて、合計一日400g以上食べる」これは相当な量で、野菜ばっかり食べている感じです。それから「塩分摂取を最小限に抑える」目標は一日9g以下、本当はもっと少ない方が良いという説もあります、特に男性は食習慣として耐えられない面もあるとは思いますがあえてこの目標となりました。3番目に「定期的にウォーキングする」これには私は7か条のなかで一番驚いた情報です。4番目「標準的な体重を保つBMI21~27」糖尿病等の生活習慣病の医師ですと上は25と云いますが、がんに限っては少し太っていてもよいということになります。5番目「熱すぎる食べ物はできるだけ避ける」普通の熱いもの好き位では関係ないのですが、やけどするようなものを週何度も食べてはいけないという意味です。6番目「お酒は日本酒なら一日に1合あるいはビールなら大瓶1本以内」7番目「タバコは吸わない」この1~6迄全部守ればがんの1/3を予防できる効果があります。また7をひとつ守れば1/3を予防できる効果がありますので、1~6までの効果と同じくらいとされています。

ですから1~7を全部守ればがんの原因の2/3を予防できる可能性の高まる生活習慣だと仰っています。がん予防に効果があると云われているものが巷に溢れている中、私たちがん予防のために実行すべきことは、当然科学的根拠があって効果が高いことからですので、一番先にやるべきことは7番の「禁煙」であることは明らかです。私は農薬と添加物はがんとは無縁とは思いませんが、科学的根拠があって効果が高いことから順序立てて実行する。これがサイエンスだと思います。

昔の感染症で死ぬ人が多い時代と異なり、最近は生活習慣病で死ぬことが多くなりましたので、生活を改善すれば長寿になると判りました。それで健康を気にするようになりました。それでも健康は手段であって人生の目的ではないので、健康より優先する人生の目的があって当然です。例えばお酒にはその健康への悪影響が容器に表記されていますが、多くの人がたしなみます。私たちは自分の人生にとって必要なものは健康に悪いといわれても食べています。そう考えますとごくごく僅かなリスクある微量な放射能、農薬、食品添加物等を絶対に食べない等の極端なこだわりより、健康は栄養バランスよい食事で、適量に食べることの方が大事ではないかと思います。

平均的な話ですが、タバコを吸う人と吸わない人では母数が多いほど明らかに肺がんになる可能性の違いがデータで出てきます。聖路加病院の102歳の日野原重明先生は最後がんで死ぬと云っています。また「百歳を過ぎてがんで死のうよ」と云っており、そのがんを先生は天寿を全うした天寿がんといっています。先生は、私たち人間は何もなければ遺伝的には120歳位生きられる体を持っていると云っています。それにもかからず生活習慣が悪いために若いうちに他の病気で死んでしまう、それを防ぐ方法はデータに出ていますので生活習慣を改めて百歳を超えて天寿がんで死のうよと云っています。私もできれば先生の云うように天寿がんで死にたいと思っています。

本日はご清聴どうも有り難うございました。

平成25年度 第4回オープンセミナー(後半抄録)

今回はセミナー後半の講演の公益財団法人流通経済研究所の石川主任研究員による「食品業界の商習慣に関わる食の廃棄」を取り上げます。食品ロスの現状からスタートした講演は経済産業省、農林水産省がそれぞれサポートしたプロジェクトのスキーム、結果、今後の展開と豊富な資料を駆使頂いた講演となりました。紙面の関係上今回はその一部のみを掲載させて頂いたことを御断りしておきたいと思います。なお当講演録はご許可頂いた講演時の録音から事務局が書き起こしたもので文責は事務局にあることを申し添えます。(事務局福田)


日本における食品ロスの現状

食品ロスの問題は世界的にも現在注目を浴びております。FAO(国際連合食糧農業機構)の報告書において、農業生産から消費に至るいわゆるフードチェーンで世界の生産量の3分の1にあたる約13億トンが毎年廃棄されていると報告されて以来、OECD(経済協力開発機構)、EC(欧州委員会)、EP(欧州議会)、やAPEC(アジア太平洋経済協力)においても食品廃棄物に関する各種の議論や取り組みが進められています。開発途上国と比較して先進国においては消費段階の食品ロスが多いという特徴がありますが、日本を含むアジア先進工業地域では相対的に消費段階の食品ロスは少なくなってはおりますが、それでも1人当たり10kg前後となっています。

「もったいない」の発祥の国日本の現状を見てみますと、平成22年の農林水産省の統計によれば食品由来の廃棄物1713万トンのうち、500-800万トンが可食部分である食品ロスと推定されています。この数字は日本のコメ収穫量とほぼ同規模、また2011年の世界全体の食糧援助量の2倍近くに及びます。こういった状況のなかでその削減に関する取り組みについて国際的にもリーダーシップをとって行きたいということで、行政も積極的に取り組みをサポートしております。


食品ロスは食品メーカーにおいては多めの在庫や規格外品の発生、小売店においては販売期限切れ、商品の定番カットを原因として発生していることが従来から確認されておりました。このため食品関連事業者については食品リサイクル法に基づき、平成24年4月から平成26年3月にわたり、可食部分の廃棄処分が多い主要16業種について先行して暫定的な発生抑制の暫定目標値も定められています。また消費者について言えば消費者庁を含めた6省庁の連携体制による消費者の意識改革に向けた取り組みが進められています。


食品業界の商習慣に関わる食の廃棄の実態

流通段階の返品・廃棄ロスに向けた取り組みとしては経済産業省がサポートする「製・配・販連携協議会返品削減WG」と農林水産省がサポートする「食品ロスの削減のための商慣習検討WT」がありどちらも私が所属している流通経済研究所が事務局を担当させて頂いており、両者の間で情報共有も図られています。

加工食品における返品の発生状況ですが、製・配・販連携協議会によれば図のようになります。卸からメーカーへの返品率は1%を超え、その直接的な理由の3分の1として「納品期限切れ」が挙げられています。金額でみると「定番カット」(商品の改廃)「納品期限切れ」がほぼ3分の1ずつを占めていますが、「定番カット」による「納品期限切れ」もあり、返品の理由は複合的であり、このあたりの区分は微妙なものがあります。取引慣行として返品の原因として挙げられるものに、いわゆる「3分の1ルール」と呼ばれる取引慣行があります。これは製造時点からの賞味期限を3分割し、製造日から卸・小売に出荷できる期限を3分の1、小売の店頭に置かれ、販売期限を3分の1、消費者が購入後おいしく食べられる期間を3分の1とするもので1990年代に大手量販店の導入により広まったとされている取引慣行ですが、販売状況、在庫が把握できないため製造・在庫過多になりこれに抵触して返品・廃棄される食品が多くなります。当該WGで行った加工食品の67アイテムについての小売業者13社の実態調査においても、大枠このいわゆる「3分の1ルール」による平均値と分布構造が確認されています。


一方でこの取引慣行に対して先行的な取り組みも行われています。イトーヨーカ堂がキリンビール、アサヒビールの協力を得て行った店舗の納品期限を賞味期限の3分の2に変更するビールの納品期限緩和パイロットプロジェクトでは、納品期限切れや返品の件数の減少傾向と商品鮮度の劣化がないことが確認されており、このデータによりイトーヨーカ堂はビールについては納品期限の変更を行っています。またコンビニエンスストア・ローソンにおいては新商品導入時と終売時のプロセスを見直すことにより返品削減の効果をあげております。


また食品ロス削減のための商慣習検討WGにおいては食品ロス削減のための商慣習を検討するため、アンケート調査・ヒアリング調査を実施し、実態把握を行い、認識の共有を図るとともに、今後の方向性も検討されています。


検討結果の内のいくつかをご紹介すると、1)卸売業への返品率、メーカーへの返品率、メーカーの未出荷廃棄率の全てで菓子が高く、また飲料もメーカーへの返品率と未出荷廃棄率が高いこと 2)企業規模の小さい小売業程厳しい納品期限を設定している傾向があること 3)メーカー、卸売業、小売業3者とも消費者の「もったいない意識」は最近2-3年増加しているとしていますが、一方で消費者の「鮮度志向」もまだ根強くみられるとしていることなどです。


ご参考までにワーキングチームに参加された企業を対象に行われたヒアリング調査で寄せられた意見のうちいくつかをご紹介すると以下のとおりです。


商習慣改善の検討結果・今後の方向性

製・配・販協議会においては2011年度の返品削減WGの提言に基づき2012年に対する2013年と2014年の定量目標を定めています。また参加企業は企業ごとに製・配・販それぞれの立場で共通のフォーマットで返品削減実施計画とその進捗を作成し、製・配・販連携協議会のホームページ
http://www.dsri.jp/forum/pdf/henpinWG.pdf)を通して公開しています。また複数の製・配・販の組み合わせによる返品削減につながるパイロットプロジェクトが特売残や定番カットに焦点を定めて実施されています。
商慣習検討WTにおいては中間とりまとめを行いその取り組みを公表しています。なかでも飲料・菓子の対象となる製品の小売店への納品に関し賞味期限を2分の1程度の水準に緩和する実証事業については、小売業、卸売業、メーカーから幅広い参加を得て実施されています。


最後に

最初に申し上げたように食品ロスの問題は世界的にも注目を浴びており、「もったいない」の精神を持つ日本がリーダーシップを取っていくべき課題です。また世界的には人口増加の傾向があるなかで、今後日本は人口減少が進み、経済規模は相対的に縮小するため、日本の食糧調達力は相対的に低下すると考えられています。したがって海外食糧調達率が高い日本にとって、国内で食品ロスをいかに低減していくかは重要です。製造や消費の分野ではすでに各種の取り組み行われています。流通の分野も同様です。
一方、流通については単独の企業ではなかなか取り組みが難しいことも事実です。しかしこういった状況のなかでも今までご説明差し上げたような関係省庁のサポートのもと複数の企業による種々の取り組みやプロジェクトが進められています。今後も製・配・販連携協議会や食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチームの活動については、事務局として鋭意取り組んでいくつもりです。ぜひ注目していただきたいと思います。(文責事務局福田)