2月26日、当協会一般社団法人移行後最初の会員向けセミナーが、講師に消費者庁、食品表示課今川課長補佐を迎え乳業会館会議室で開催されました。椿山会長理事の挨拶の後、今川課長補佐からは「食品表示一元化について」の標題で、時宜を得た興味深い講演を戴きました。なお当稿は今川課長補佐のご許可を頂いた当日の録音から事務局高橋が抄録として書き起こしたもので、文責は事務局にあることを最初にお断りしておきたいと思います。


ご丁寧なご紹介を戴きありがとうございます。消費者庁食品表示課課長補佐をしております今川でございます。本日は大変貴重な機会・時間を戴き有難うございました。

「消費者庁発足の背景」

現在消費者庁では色々な法律に分かれております食品表示の一元化に向けた動きを進めております。
消費者庁の発足の背景ですが、発足は約3年前になります。当時色々な消費者に係る問題 、食品で言えば蒟蒻ゼリー等の問題等が起き、それらに一元的に対応できる組織という事で消費者庁が発足致しました。従いまして消費者関連の法律を扱う組織が多くなっております。
消費者庁の組織は【図1】のようになっており 消費者特命大臣がおりまして、消費者庁は内閣府の外局として人数的には300名弱程度です。私が所属する消費者庁食品表示課ではJAS法、食品衛生法、健康増進法、米トレーサビリティ法の4法を対象としており、その表示の部分を所管しております。

「現在の食品表示に関する体系と一元化に向けた作業」

現在の食品表示に関する法律の区分は【図2】のように複雑であり、これらを分かりやすく整理するために現在食品表示に関する規定があるJAS法、食品衛生法の食品表示に関する部分を一元化というところが今回の主な作業になっています。

しかし端的に申し上げるとJAS法は「品質」、食品衛生法は「安全」という法の目的に違いがありますので、重なる部分はありますが、その必要な表示事項が違っております。具体的にはJAS法では品質に影響を与える部分として原材料とか原産地、一方、食品衛生法では添加物とかアレルギー物質を表示することになります。又、健康増進法関連では栄養成分表示が主たるものです。参考までですが、消費者庁が行った大手スーパーマーケットからの買い上げ調査によれば約80%の食品に栄養成分表示がなされていました。現行ではこの表示は任意なのですが、表示について定められたルールがあり、表示を行う際はこのルールが適用されるとされています。これらの表示に関する法律を一元化するために、後程ご説明する検討会を開催しました。その議論の過程では一元化の対象とする法律についての議論もありました。景品表示法や牛トレーサビリティ法なども対象とすべきではないかというご意見もあったのですが議論の末、最終的には2つ(JAS法と食品衛生法)+1つ(健康増進法)であろうという意見集約が行われました。

ここで現行の各法律の内容を簡単に紹介しますとJAS法では条文本体には表示基準を定めなければならない旨が規定されていますが、それを具体化した基準として大きく2つの基準、生鮮食品品質表示基準、加工食品品質基準があり、このそれぞれに個別の品目品質基準が定められています。一方、食品衛生法では主に2つの基準、1つは乳の、もう1つは乳以外のものとなっています。乳の方の表示は乳等省令第7条、乳以外のものは食品衛生法施行規則第21条として運用されてきたものですが、これらは既に消費者庁の内閣府令に移行されています。【図3】このように、JAS法は生鮮食品と加工食品とに分けた体系となっているのですが、食品衛生法はそのような体系にはなっておらず、これらを体系化して一本の基準にしていこうということです。そこに至るまでにはまず用語を統一していかなくてはならず、これが重要な作業となります。

現在実際に機能している基準を議論なして変える事は出来ない訳ですから、『食品表示法』(案)は、先ずは食品衛生法とJAS法の表示に関する部分を統合するという事になります。新しい表示基準はその後に作成されますが、これも基本的には現在の表示基準を維持したまま両法の関連する基準を統合するという方向性になります。但し当然用語を統一し文言整理は行わなければなりません。また一方で従来から変わる部分として栄養成分表示があります。現在の任意表示から新法施行後5年後を目途に義務化を目指すという方向になっております。

「食品表示一元化に向けて」

検討会は一昨年9月から消費者団体、業界団体、学識経験者等各分野の方々にご参画頂き検討を進めて頂きました。【図4】食品表示一元化の方針は閣議決定されていますが、それをどうやって進めていくかの議論を進める過程で色々な意見を頂きました。

次に食品表示一元化後のイメージですが、対象3法中、例えば食品衛生法では、表示の規定以外にも規格基準の規定や営業許可の規定などもあります。新法では19条で【図5】の青破線囲い部分を切り取って(新法へ)移すというイメージになります。

現在の食品表示は【図6】の様になっております。
名称等は義務、一部義務に原料・原産地、栄養表示は任意となっています。現行の3法での表示の範囲が【図7】です。容器包装され製造場所以外で販売されるものはJAS法食品衛生法とも表示義務があり、製造場所で販売されるもの(あらかじめ容器包装されたものに限る)は、例えばスーパーマーケットのバックヤードで作られ販売される惣菜類ですが、JAS法では表示義務がなく食品衛生法では表示義務があります。又あらかじめ容器包装されずに販売されるもの、例えば弁当屋さんなどで注文に応じてその場で詰めて販売される食品は両法とも表示義務がない、外食は3法とも表示義務がない、インターネット販売については、消費者の手元に届く商品自体には表示義務はあるが、Web上の表示には表示義務がないといった具合です。これらの食品表示義務の有無を提供形態から取り纏めたものが【図8】となります。

「表示についてのアンケート結果について」

そしてこれら食品表示を消費者がどうみているかを内閣府がアンケート調査したものです。【図9】

商品への表示希望優先度について、直近の20年度を見ますと 日付、原産地、添加物、原材料、農薬や添加物などが上位です。この中でアレルギーは数字としては少ないが、アレルギーをお持ちの方は100%見ると思いますので他の項目とは観点が違うところがあると思います。次に消費者庁が行ったアンケート調査で、食品表示が判りにくい理由についての調査結果ですが【図10】、①文字の小ささ ②商品によって表示の仕方が違い ③記載内容が多すぎるわかりにくさ、①はほぼ全ての表示項目に対して多くなっています。次に、見やすくするにはどうすれば良いかのアンケート結果ですが、文字を大きくして見やすくという方が多いのですが、一方WebとかPOP表示などについて聞きますと直接容器包装に表示してほしいという方と、容器では限界があるのでWebなどを活用してより多くの情報を伝達してほしい方と半々に分かれます。

又、【図11】検討会での中で文字を大きく等で判り易くというところに主眼を置きますと表示が緩和されてしまうのではないかとの意見もありましたが前段でご説明したように、表示事項の内容については今後の詳細な議論の中で結果的にでてくる可能性はありますが、基本的には現行の表示基準は維持することになると思いますので緩和されることはありません。

「一元化に並行して進めるべき課題」

次に、【図12】この一元化検討会を始める前に消費者庁には2つの個別の課題がありました。

一つは加工食品の原料原産地です。これについては、過去議論を進めるなかでその品目は増えてきておりますが、一方、消費者団体の方々の意向として原則すべての加工食品について原料原産地表示の義務化を求められています。しかし現行のJAS法ではこれ以上増やすのは困難であるということも言われております。つまり現行のJAS法下では今までの22品目の選定要件として、1つめは原材料の品質の差異が最終加工食品に大きく影響があること、2つめは原材料のうち単一の農畜産物が最終製品に対して重量比が50%以上であることです。この要件により現行の22品目が選定されておりますが、仮にこれ以上に品目を増加させていくとすれば、結果的にだんだんと、加工度が高い品目に着目することになってきます。加工度が上がれば原材料の品質の差異が最終製品の品質に大きく反映されることがなくなってくることが予測されます。このために品質の観点をその法目的とするJAS法のもとでは、これ以上に品目を増やしていくことはなかなか難しく、そのため、食品表示の新法での対応が必要になってきたというものです。

次に【図13】もうひとつの個別課題である栄養成分表示ですが、エネルギー、蛋白質等の栄養成分表示は国際的にも義務化の方向で進んでいます。最初にアメリカで1994年に義務化され、2000年以降オーストラリア、ニュージーランド、韓国、中国と義務化が進み最近ではEUも2011年に義務化を打ち出し施行は2016年となっています。こういった国際的な流れから日本も義務化の方向であろうとされました。なお、CODEXでもここ2年ほどの間に、表示項目としては5成分以外のほかに飽和脂肪酸、糖類を加えた7品目が上げられ、またそれまでの任意表示から原則義務とされたところです。

次に、では何故一元化をしなければならないか、と言うことですが、食生活の今日的な課題への対応、具体的には食生活の多様化、高齢化の進展、様々な情報伝達手段の普及が挙げられます。食品衛生法は昭和22年、JAS法は昭和24年に制定され、それぞれ60年以上が経過しています。それぞれの法律の下、少しずつ表示事項の追加や改正はされているのですが、一方で表示をめぐる情勢も変化して来ています。例えばコンビニの24時間営業などで弁当などはいつでも買えます。またネットでもいろいろな食品を買うことができる、また関連情報にインターネットを通じていつでもでアクセスできるなど情報媒体も大きく変化しています。これに加えて今後の高齢化の進展で表示文字の大きさを含めた分かりやすさが重要となってきています。これらの状況の変化を踏まえて表示の規定を見直す必要があるのではないということです。又その見直しにあたっては栄養成分表示を主とする諸外国の動向も把握する必要があるわけです。

「一元化作業の内容の検討について」

では一元化の考え方ですが、【図14】食品衛生法、JAS法、健康増進法、米トレーサビリティ法等その他にも景品表示法等、食品の表示が関連する法律はいくつかあるのですが、この中で、食品表示の一元化は、食品衛生法、JAS法、健康増進法の3法がやはり中心になるであろうという検討がされました。また、一元化を進める上で「わかりやすさは」事業者と行政にとっても重要なことです。例えば関連する法律が2つあると事業者はその両方を確認する必要があり、行政の窓口も異なりにわかりにくいという事になります。一方、消費者側の観点としても法体系の複雑さを一つの要因として偽装表示等が発生したとも考えられることや、現行の表示基準を勉強しようとする場合に、制度を正確に理解することがなかなか難しいといったことなどの問題は消費者にとってもやはり「わかりにくい」ということになろうかと考えられます。

また消費者基本法の理念と食品表示の役割ですが、今回『消費者の権利』と言う文言を新しい法律に入れるべき、との意見が一元化検討会の議論の中にもありました。消費者基本法は昭和47年に施行された当時は『消費者保護基本法』という名称で、消費者は保護する対象であるとの考えでした。その後平成16年に改正された際、消費者の安全が確保されることや、商品を選択する機会の確保というのは消費者の権利であるという考えから、消費者の権利の尊重とともに、消費者の自立の支援という文言が明記され、法の題名から保護という文言が無くなりました。こういった流れのなかで食品表示についても消費者の権利を法の中で明文化すべきではないかということです。消費者基本法の理念のもとに今回の食品表示法案も位置づけられると考えられることから、新しい食品表示の法案の中にも消費者の権利の尊重や自立の支援といったことについて、何らか盛り込むことができるかどうか検討しているところです。

「新制度のあり方、目的」

次に新制度のあり方、目的ですが
【図15】一元化検討会においては、食品の安全性確保に係る情報の消費者への確実な提供を最優先に、併せて消費者の商品選択上の判断に影響を及ぼす重要な情報の提供を法の目的として位置付けるべきとされています。最終的には食品を摂取する際の安全性の確保を考えております。というのは食品自体には規格基準等があり、流通している食品そのものについての安全性は、表示があるかどうかにかかわらず担保されていると考えられますが、一方で、いざその食品を摂取する際には、例えば、アレルギー表示や保存方法の表示などが大変重要になりますので、食品を摂取する際の安全性の確保という考えであり、その部分を最も重要とし、次に商品選択の際に必要な内容を表示するという優先順位付けをしてゆくべきではないかという考えです。また義務表示の範囲ですが、消費期限、アレルギー、添加物等の現行の表示事項はすべて重要ですが、一方でこれらの表示事項に優先順位を付けて考える事も必要、ということです。また、将来的にも必要に応じて見直しできるような法制度とすることも必要です。また併せて具体的な表示基準を、下位法令である内閣府令等とすることでその準備を進めております。
各論として以下にもふれておきます。

■中食、外食におけるアレルギー表示
課題として中食、外食におけるアレルギー表示の扱いがあります。これは、現在、中食や外食には、一部、生食用牛肉のリスクに関する表示を除いて、基本的には表示事項はありません。検討会の中ではこの分野にも表示を広げていくか検討すべきで、その候補となる項目としては、まずはアレルギー表示についてであろう、ということになりました。しかしこのアレルギー表示にしても、中食、外食に対して表示するということは大変な難しさがあります。中食や外食では、意図せざる混入、つまりコンタミネーションをいかに防止するか、という難しい課題があります。検討会では、実態調査なども行いながら、アレルギー患者の団体や専門家を入れた場において議論を進めていく必要がある、という事になりました。

■インターネット販売、カタログ販売、自動販売機での表示
インターネット販売、カタログ販売、自動販売機での表示についても。例えばインターネット販売では、インターネット上で賞味期限などの表示を行うのは困難等の難しい問題があり、やはり、専門家を入れた場において議論を進めていく必要がある、ということになっています。

■加工食品の原料原産地表示
加工食品の原料原産地表示ですが、検討会の中でかなり議論がされましたが最終的には別途議論が必要ということになりました。JAS法の法目的から品質に限られておりましたので品質以外にも広げようという課題はこれからの議論の対象となっていく事となります。検討会の議論の中では、原料原産地表示をこれ以上増やす必要はないのではないかといった意見や、原料原産地表示の拡大は必要との意見もありました。法目的が品質に限定されないという新法の位置付けのもと、今後、新たな場で議論を継続する予定です。

■遺伝子組換え表示や添加物表示、栄養成分表示
次に遺伝子組換え表示や添加物表示ですが、これも優先順位を付けながら今後議論をしていく事になります。栄養成分表示ですが、義務化に当たっては、消費者、事業者双方の環境整備と表裏一体の処があります。消費者側の環境整備とは、栄養成分表示が何の目的で表示されているのか消費者に正しく知っていただく必要があります。また栄養表示値はその食品自体を検査している訳ではないので、個々の食品それぞれの表示の数値には誤差が生じ得るものである事をご理解頂いた上で、しかしながら中長期的な視点では健康の増進に資するという本旨をご理解頂きたい、このための消費者、行政側の環境整備です。また、事業者側の環境整備ですが、原則全ての食品で栄養表示を義務化するとなると、少ない製造ロット数のものも対象となりますので、分析の負荷を減らす為には計算式での表示の導入や、そのためのデータベースを用意する等が必要になってきます。これらは事業者側の環境整備であるとともに行政にとっての環境整備ともいえます。これら環境整備の状況も踏まえて、新法の施行後概ね5年以内を目指しつつ、栄養表示の義務化を導入していく、という報告書となっております。

「新法の内容について」

これら議論を踏まえて、3法の添付【図14】の緑色で囲った部分を取り入れて表示基準を作ってゆくわけですが、検討会が示した方向性を基に作業進めてまいります。【図16】つまり今後は行政が提出した法案につき、立法府である国会で議論をして頂く事になります。行政措置(指示等)の対象範囲の拡充については現行法では、食品衛生法は指示や勧告、命令の規定が表示に関してはありませんが、例えばJAS法では、指示ができ、従わなければ命令ができる規定があります。従って新法ではその範囲を食品衛生法の部分にも拡充する方向です。調査権限規定の整備(帳簿書類などの提出等)は、現行法と同様に、立ち入り、臨検検査、報告を求め、収去できるように検討中です。執行体制については、食品衛生法は都道府県の保健所で、またJAS法は国の農政局があり、また都道府県も担当していますが、この現在の執行体制の整備についても検討中です。現在、JAS法のみにある申出制度も、食品衛生法や健康増進法の表示部分にも拡充する方向です。具体的な表示基準については内閣府令とか告示等で規定する予定で、原則的には今あるものは引継ぎ、その作業と平行して、原料原産地表示や遺伝子組換え表示等の検討事項を進めて行く事になります。

「今後の予定」

最後に今後の予定です。7月以降に参院選を控えていることもあり、今国会会期は6月末頃迄と思われ、会期延長が困難と予想されますが、消費者庁としては、今国会に提出すべく、この法案の提出準備を行っています。また国会での議論によりますが、成立した場合施行まで2年程度の期間を取りたいと考えております。その施行までの間に1年くらいかけて表示基準を作り、一緒に施行というスケジュールを考えております。なお栄養表示は、法律施行後概ね5年以内を目指すことになりますので、目途としては7年後以内での義務化の可能性が高いのではないかと思われます。検討課題であるアレルギー表示、インターネット、遺伝子組換え、添加物、原料・原産地表示を並行して順次検討して、時期が来れば新しく作った表示基準を変えて行く事になります。

事務局追記
政府は4月5日「食品表示法案」を閣議決定しました。消費者庁は今国会での成立、2015年の施行を目指すとしています。(4月5日各紙新聞報道より)なお本稿はホームページで図表の細部の確認が可能です。