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コラム
 
 

平成22年度 第1回オープンセミナー(前半抄録)

日本乳容器・機器協会は初めての試みとして昨年11月18日(木)午後に公益目的事業として第1回オープンセミナーを東京コンファレンスセンター・品川で開催しました。当日は総数で100名近い参加者がありました。なかでも協会非会員の参加者は全参加者の約半数を占め、関連団体、消費者団体、流通団体、乳業各社、関連の業界マスコミ等の広範な参加者があり、当該セミナーの本旨である普及啓発活動を実践したものとなりました。    

まず挨拶に立った鈴木会長理事から当協会の歴史や現在の課題と、平成23年12月に迎える当協会50周年記念日以降の「あるべき姿」とこれに向けて現在進行中の具体的手順についての説明がありました。  

その後来賓挨拶をお願いした厚生労働省加地監視安全課長は、最近出張された米国シアトルのオイスターバーや海岸で散見された”AT YOUR OWN RISK”の表示を例に上げ、日本における同種の件に対する対応と比較し、またセミナー前日の神戸地裁姫路支部の「こんにゃくゼリー」の判決にも触れました。  

本号ではまず国広総合法律事務所の國廣正弁護士のご講演を取り上げたいと思います。本稿はご許可を頂いたセミナー当日の録音から、事務局福田が書き起こしたもので文責は福田にあることをお断りしておきます。なお次号では毎日新聞社小島記者のご講演を取り上げる予定です。なお國廣弁護士の著書「それでも企業不祥事が起こる理由」日本経済新聞社刊を参考にさせて頂きました。(事務局福田)


國廣でございます。
私は弁護士で学者ではありませんので具体的な事例をとりあげながらご説明して行きたいと思います。    

実例をもとに、品質とはなにか、コンプライアンスとはなにかを考えてみる  

過去のA社のガス瞬間湯沸かし器の問題を取り上げてお話したいと思います。端的に申し上げると「企業は弁護士の法律論にしがみついてはいけない」と言うことです。電気で駆動する強制排気安全装置が作動しないと湯沸かし器そのものが稼働しないという安全装置に対して、A社が関知しない業者のいわゆる「不正改造」が約20年前から行われており、このため中毒事故が発生して死者がでていたというケースです。  
この問題は法律上の観点からみれば、本件は製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めた製造物責任(PL)法等に該当するかということになるかも知れません。しかしA社は10年前に全ての非契約を含む全業者に対して「不正改造」についての注意文書を発行し、これによってそれ以降の「不正改造」がなくなったことで、それ以上の対応をしなかったわけです。そのため約数10万台に及ぶと推定されるそれ以前の「不正改造」された湯沸かし器に対してはその存在を知りながら対応を行わず、中毒による死亡事故も年に数件は発生していたわけです。  
この対応は法律以前の問題として社会的存在である企業の社会的責任やCSRの観点から考えると、法律論にしがみついてしまった間違った対応であった言えると思います。無論危機管理としても正しくはありません。A社の当時の社長は刑法上の業務上過失致死罪に問われ本年有罪判決を受けました。皮肉なことに法律論にしがみついたために更に重い法律的制裁を受けてしまったということになります。  
著名な自動車メーカーであるB社の本年のアメリカにおける問題は限界事例といえますが「品質」に自信をお持ちで、なおかつ定量的にも品質を管理されているB社が、消費者の感覚によって変わる可能性がある、異なる「物差し」との齟齬に遭遇してしまったということかも知れません。

コンプライアンスとは何か  

コンプライアンスはよく法令順守と訳されていますが、私は正しい訳とは思っておりません。コンプライアンスとは法律の条文解釈論でも金科玉条の精神論でもありません。企業に対する社会的要請をきちんと把握して、これに柔軟に対応する適応力が企業のコンプライアンス力だと考えています。また企業に対する社会的要請は十年一日のものではなく、時代によって変化するものであることを忘れてはいけません。  
具体的な事例で言えば皆さんがよくご存知の「食」に関連する食品偽装の問題は「食の安全」ではなく、消費者に対して「うそ」をつき、騙していることが本質です。また企業の有価証券報告書の不実表示も本来正確な情報によって判断されるべき投資家の判断を曇らす「アンフェア」な行為であるという本質を理解できれば、会計原則などを持ち出さなくても理解できると思います。その意味ではコンプライアンスはフェアな自由競争への企業の参加資格を守るということになると思います。この本質をきちんと把握せずに法律論や会計原則論にすりかえることは問題の本質を見失うことになりかねません。

不祥事防止のためのリスク管理の実務的基本  

今までの説明でコンプライアンスはリスク管理であるということをご理解いただいかと思います。では企業にとってのリスク管理とはなにかということを考えてみたいと思います。リスクをゼロにすることでしょうか。まず理解しなくてはいけないことは間違いや事故はゼロにすることは不可能だということであり、リスク管理はリスクをゼロにするというお題目を唱えることではないということです。従ってリスク管理の第一段階はリスクを減らす努力をことです。これによりまず100のリスクを20か30に減らすことできます。第2段階はこの残った起こりえるリスクに直面した場合にそれを小火(ボヤ)の内に消火する体制を整えることです。  
私は色々な場面で日本社会の風潮である「あってはならない」という言葉を追放して頂きたいとお話しています。またこれを私は呪縛だと思っています。リスク管理は合理的な企業行動でなければならず単なる精神論ではありません。またこの呪縛は「あってはならない」不祥事が起こった時にこれを隠蔽するという行動に繋がります。私は「2発目轟沈の原則」と呼んでいますが、企業は事故や不祥事を起こしただけでは、通常まだ致命的な打撃には至りません。ただこの事実を隠蔽したことが明らかになった時、当該企業あるいは組織は社会的に葬られるおそれすらあるということです。つまりこの呪縛は不祥事を隠蔽する方向へのベクトルになってしまうということです。  
ただリスクは減らしていくものだという前述の方向で社会的な議論を進めていくことは企業サイドだけでは難しい点があります。特に皆様の事業領域である「食」の分野はこの呪縛が強い分野と言えると思います。この観点から考えると「あってはならない」という建前論に対して、本来のリスク管理論で議論をしていくことはなかなか困難なことかもしれません。しかし業界団体、消費者団体、マスコミ、行政等の間で建設的な議論を行い、リスクは量的なものでありこれを管理していくことがリスク管理論であるというコンセンサスを創り上げていくことは企業の社会的責任に一部であると言えるのではないでしょうか。またこのリスク管理を企業や組織内で進めていくためには知識としてのリスク管理論を学ぶことではなく、組織内で関わっている人々の意識を変えることが必要です。このための魔法の杖はありませんが、私がお奨めしているのは「今あなたが会社あるいは組織で行っていることを家族に話せますか」というシンプルなものです。ただ皆様が容易に想像できるようにこの意識の浸透はそんなに易しいことではありません。

消費者重視の姿勢とはどういうことか  

消費者目線の重要性は議論の余地がありません。排ガス規制に関するマスキー法が日本の自動者メーカーの飛躍のドライブになったことはよくご存知のことかと思います。ただこれを大前提とした上で、日本の消費者のなかに根強くある「あってはならない」という呪縛に対して、リスク管理論に基づいた、冷静かつ具体的な対応を行うことは企業としても必要なことだと思います。言い換えれば「危険は排除するものではなく管理するものだ」ということを社会的なコンセンサスとするべく、個別のケースでも対応するべきです。食の偽装が注目を浴びていた時期に散見した「砂の入ったアサリの缶詰」や「やきむらのあるクッキー」のリコールはまさにこのことを放棄した対応と言えるでしょう。無論こういった努力を行うためには従来から消費者との有効なコミュニケーションのための色々な仕組み作りも当然必要です。


平成22年度 第1回オープンセミナー(後半抄録)

 本号では毎日新聞社生活報道部小島正美編集委員のご講演を取り上げたいと思います。本稿も小島編集委員のご許可を頂いた当日の録音から書き起こしたものであり、文責は福田にあることを再度お断りしておきます。なお小島編集委員の著書「こうしてニュースは作られる」エネルギーフォーラム刊を参考にさせて頂きました。(事務局福田)

ご紹介頂いた小島です。実際の記事と関連資料をみて頂きながらご説明します。

E食用油に関する報道

まず現在のマスメディアの問題点を凝縮していると思われるK通信社配信の2010年8月27日付のK社のE食用油に関する新聞記事を取り上げて問題点を指摘したいと思います。私に言わせれば「社会問題が記事」になったのではなく「記事が社会問題」になった実例と思われるからです。つまり当該記事の読者は「ジャンク情報の被害者」ではないかと思うからです。この記事のベースとなったペーパーから把握しなくてはいけない事実は以下の3点かと思われます。


1. ラットにヒトの一日推定暴露量の4600倍に相当するE食用油を与えて血中移行性を検討した。
2. その結果ラットに血中から発がん性物質が検出された。
3. より低い容量での、ラットとカニクイザルを使用した動物の種間差による血中移行性の比較において、カニ
クイザルの血中からは発がん性物質は検出されなかった。


しかしながら当該記事は2だけをとりあげ、1と 2についてはまったく触れていないのです。2009年秋以来本件が大きく取り上げられたことを考えると、この時期の当該記事の問題点はより明らかになるのではないかと考えられます。実はこの件に関する食品安全委員会の発表時には私を含めて複数のメディアの記者がおりました。しかしK通信の記者だけがある意味で「わかりやすい」この記事を書き、地方紙を中心にかなりの量が配信されているという事実があるわけです。言い換えれば正しい「リスク」に関する考え方を持たな い記者が書く記事の「恐ろしさ」だと思います。
別の記事ですが本件に関連して消費者庁担当者が「科学的データがそろってから考える」と繰り返し“消費者側にたって行う行政”の限界を図らずも示したという記述がありましたが、私に言わせれば「科学」よりも「庶民の感覚」を優先するというリスク報道に対する考え方をこの記者が持っていること自体が問題だと考えます。また2009年12月13日朝刊のY新聞社の「E公表の苦悩」という囲み記事は取材経緯を確認すると、記者が「頭のなかで創り上げた分かりやすいシナリオ」(バイアスと言い換えることも可能かもしれません)を十分な確認すら行わないで書かれた「変な記事」であり事実とも異なります。本件についてK社は迅速に対応すべきではなかったのかと私は思っています。但し私の記者としての経験則からいえば「間違いを直せ」と声高に迫るよりは「こういった考え方もあるのでフォロー記事を載せて欲しい」というアプローチの方が成功率は高いようですが・・・

臨床試験中のがん治療ワクチン被験者の消化管出血に関する報道

2010年10月15日朝刊のA新聞社の一面トップ記事をそのまま読むと「重篤な有害事象」である消化管出血をT大学医科学研究所が同種ワクチンを提供する他大学に伝えなかったとしている記事ですが、A新聞のこの記事だけからみると同医科大学研究所は医療倫理上まるで問題があったようにも思えるわけです。しかし実名で登場する教授の方のメールマガジンや、臨床系の日本中の研究者を網羅したと思われるネットワークからのA新聞社長に対する抗議文で確認すると以下の視点が欠けていることが明らかになります。

1. 他大学の臨床研究施設はT大学医科学研究所の「有害事象」につき情報提供を受ける立場にはなく、「なぜ知らせぬ」という表現は不自然
2. 出血は進行ガンの一般臨床において少なからず起こることであり、言い換えれば出血のリスクを有する患者の協力による臨床研究についてのリスクについては臨床医の間で日常的に議論されていること
3. 原病の悪化による出血の有害事象については、ネットワークに参加している臨床医の施設で経験され、既に情報共有もされており、そのうえでワクチンの関連性は極めて低いとされていること

なおこの記事に関して各地の患者団体が記者会見を行い「早く臨床研究を進めて欲しい」と、A新聞の記事に対して否定的な観点から声明を発表したにも関わらず、10月21日の夕刊ではこの動きが、まるで当該記事に肯定的だととれる記事を書いているというおまけまでついており、さらに患者団体を怒らせるという結果を招いています。國廣弁護士の講演にもありましたが、新聞社も組織であり、一度発表した記事の内容について、否定的なアクションはとりにくいということかもしれません。ただ一番の問題点として指摘しなくてはいけないのは上記のような記事に対してのカウンターとしての情報が記事自体と比較すると、なかなか入手しにくいという現実です。

Iハム事件やこんにゃくゼリーから学ぶ教訓

同じ発表から各紙が色々な記事を書くということはよくあることですが、リスクに関する報道について言えば、発表する側がどんな資料を用意するかという点も非常に重要です。記者会見時に分厚い資料だけを渡されても記者は読みません。「何を世間に伝えて欲しいか」というメッセージをきちんと持ちA4サイズにポイントを纏め、リスクの大きさをその物差しを含めて数字で示した一覧表を作ることも効果があるようです。ヨーロッパのリスク報道が正確なのは発表側にサイエンスライターと呼ばれる人々がいて資料作りを行っているからだと言われています。

よりよいリスク報道のために

私は今後のよりよいリスク報道のためには例えば学者、企業、記者が集まって「リスク報道ガイドライン」を作るべきと考えています。例えば残留農薬基準違反はそのまま健康被害ではなく、あくまで生産者への警告と判断すべきとすることや健康被害はADI(Acceptable Daily Intake, 一日許容摂取量)で判断すべきとすること、そしてリスクの大きさを分かりやすい数字で示すといった内容です。このあたりについて貴協会のような業界団体の役割は重要です。また記者にとっての一番の問題点は書いた記事に対してフィードバックがないことです。訂正を求めることや、ネットワークでコメントすることも必要ですが、最終的な解決策は第3者的なリスク情報評価機関の設立ではないかと考えています。具体的には間違い報道の公表や訂正要求という形で実際に活動されている業界団体もあります。食品の領域では協会が記者を集めて勉強会をやっているケースもあり有効な手段だと思います。

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