サムズパッケージング研究所
所長  太田 進

包装開発・温故知新 (第1回)

初めに

 はじめまして、サムズパッケージング研究所の太田と申します。2017年11月開催の第8回オープンセミナーで講師をさせていただいたのがきっかけで、個人会員として、当協会に入会しました。今後ともよろしくお願い致します。また、個人会員になったのがきっかけで、今回協会便りに連載記事を書かせていただくことになりました。乱文ではございますが、一読いただければ幸いです。

連載記事について

 橋場事務局長からの連載記事依頼を承諾したのはいいが、さていったい何を書けば良いのかと思案に暮れる日々。文才がある訳でなく、前任の福田顧問のように多才な見識がある訳でもない。橋場氏からは、将来容器包装や機器に求められることについて書いて欲しいと言われたことを思い出す。確かに、私は、(株)明治の前身である旧明治乳業に入社し、38年間の会社人生のうち、その8割近い30年間包装開発に携わって来た。これしかないだろう。
ということで、タイトルを『包装開発・温故知新』とした。文字通り、「包装開発の故きを温ねて新しきを知る」である。私が在職時代に開発した容器包装や世の中にあった商品を思い起こしながら、また、包装に関連する情報なども盛り込み、将来に向けて何がもとめられるのかについて考察してみたい。答えが出るとは限らないが、その辺について少し書いてみようと思う。

包装に求められるもの

 最初に、結論めいた話になってしまうが、私が講演の度に話していること、包装開発の原点について言いたい。これは、当会のオープンセミナーでもお話ししたと記憶している。次のような内容だ。

 お客様がパッケージに求めるのは、基本的には、商品の保護性、利便性、商品伝達性を満たすことに尽きる。しかし、これらは「当たり前」のことであり、お客様は無意識に使っている。無意識に使っても、どこかに満足感や心地よさが残るはず。それがリピート購入につながると信じている。 多くは主張していないが、何気なく、無意識に使える容器。言い換えれば「イライラせずに、ストレスフリーに使える容器」。こんな容器開発が本質だ。そして、結果として、快適性という価値を提供できるのだ。

包装開発の原点と言える容器包装

図1 らくらくキューブの外観
図1 らくらくキューブの外観

 私が携わった容器の中で、多くは主張しないが本質を突いたものがある。それは、乳幼児向け固形ミルクで、「らくらくキューブ」という商品の包装だ。
なんと言っても商品が素晴らしい。粉ミルクの課題を解決した商品。夜間、お出かけ時、計量の手間が不要である。固形であるがお湯に簡単に溶け、しかも、従来の粉ミルクと成分は同じ。固めるために余分なものは添加していない。赤ちゃんに飲ませるミルクなだけに、特に安全性を気にするお母さんにはうれしいと思う。少子化は粉ミルク市場には大きな影を落とす。そんな中、開発された新たな価値を提供する商品である。

中身あっての容器包装

図1 らくらくキューブの外観
図2 らくらくキューブのピロー包装

 容器包装は、それ単独では存在し得ないのである。良い中身(食品)があって、初めて容器包装は活きる。良い中身と良い容器包装がうまくマッチングした時、商品力は最大になる。「らくらくキューブ」は、それが実現できた例だと思っている。

 図1に示したのがキューブの外観だ。これを、5個1列に並べてピロー形状にガス置換包装する。(図2)

 これは、輸送中の振動、衝撃から守るためである。ピロー内に吹き込まれた不活性ガスは、製品に吸着し、真空包装状態となり、製品を固定できるのである。これが、衝撃緩和のアイデアである。これ以外にも、開封のしやすさを考慮した素材構成、ほ乳瓶へ投入しやすいピロー包装の寸法設定、3カ所にミシン目を配置した易開封包装、乳等省令適合の材料選定等々、包装設計に、数多くの工夫を盛り込んだ。
でも、すぐこの包装形態に辿り着いた訳ではない。キューブの構造上の特徴は、空隙率が高いことだ。だから、お湯に溶けやすい。その反面、脆さが弱みであった。これにどう対応するか。トレイが必要ではないか?緩衝作用を容器設計にどのように組み込むか?試行錯誤が続いた。また、ほ乳瓶にキューブを入れるのに、素手でつまむ訳にいかないだだろう。衛生的に扱えるための配慮が必要と、キューブをつまむピンセットまで考えた。紆余曲折を経て、シンプルなガス置換ピロー包装の「らくらくキューブ」が生まれた。


多くを主張しない容器

図1 らくらくキューブの外観
図3 らくらくキューブのセールスポイント
((株)明治ホームページから引用)

 外観は何の変哲もないピロー包装にすぎない。まさに、多くを主張してはいないのである。
良い容器、差別化された容器を開発しようと頑張りすぎて、過剰な設計に陥ることがある。過剰な設計だけでなく、材料や部品までも過剰になってしまう。ガラパゴス設計、過剰包装をお客様は絶対望んではいない。ましてプラゴミが世界的に社会問題化している昨今では過剰包装は慎みたいところだ。「らくらくキューブ」は、ピロー包装という単純な包装形態にも関わらず、多くの機能を持った包装となった。(図3)
シンプルイズベストと言うが、単純なピロー包装でこれだけの包装開発ができたことを自負している。ちなみに2011年には、包装界で名誉ある木下賞を受賞している。

プラゴミ問題

 毎日のゴミ出しを自分でやってみるとよく分かる。何とプラゴミの多いことか。確かにここだけを見ると、プラゴミの排出量は何とかせねばと思う。大手コーヒーチェーンやファストフードが、海洋ゴミ問題に対応し、プラストローを廃止する動きが出ると、マスコミ報道がこれを煽り、プラスチックが悪者扱いされている。一方で、人間はプラスチックの恩恵を限りなく受けていると言うのも又、事実。多くのプラゴミが世界で溢れるのは、その証拠と言える。うがった見方かも知れないが、かの外資系企業がプラストローを廃止したらどれだけのコストダウンになるのだろう。その結果、お客様にストレスを感じさせてはいないだろうか。
包装関連産業に携わる我々が、知恵を絞る時が来ていると思う。さらに、最終的な消費につながる容器包装を設計する我々には大きな責任がある。前述の「らくらくキューブ」の包装のような経験が活かせる時が来たのだ。

調製液状乳って?

 昨年8月、乳等省令が改正された。調製液状乳の解禁である。キューブの自慢話をしたあとで言いにくいが、さらに便利だと言える。溶かす手間がいらないのだから。災害対策用備蓄には最適である。
実は、ある時期私も調製液状乳の新容器開発に真剣に取り組んだ。その頃、国内では調製粉乳しか規格がなかった。法改正しないと乳児用商品として販売できない。輸入原材料コストも関税割当制度がネックとなった。粉ミルクなみの賞味期限を確保し、常温流通ならレトルト処理が必要だが、褐変化と風味劣化は許されない。海外では、既に流通しているのに、とてもハードルの高い商品だったことを思い出す。

今月のまとめ

 乳容器・機器協会便り5月号より連載記事を書くこととなり、その第1回目をお届けした。今回は「らくらくキューブ」のシンプルでありながらも、差別化された多機能の容器包装が設計できるという話であった。
次回以降も、温故知新ということで、少し古い容器包装や話題を持ち出してしまうが、ご容赦願いたい。そして、私の包装開発の経験から、少しでも示唆することが出来ればと考えている。

包装開発・温故知新 (第2回)

初めに

 私が、包装の仕事を始めた頃、社内に包装技術担当は3名のみ。私以外は超ベテランであった。中でも星野氏は、誰もが認める包装のプロとして業界にも名を馳せていた。昭和56年、(令和時代を迎えた今、昭和は遠くなりにけりだが・・・。)星野氏が開発したブルガリアヨーグルト500gの紙容器が好評で、爆発的に売り上げを伸ばした。容器が間に合わず、社内は上を下への大騒ぎであった。
何も知らない私が包装の仕事を始めたのはそんな時だ。明治社内では、商品カテゴリーを市乳、乳品、酪品などと称していた記憶がある。そして、私は、最初にバター、チーズ、マーガリンなど酪品と呼ばれる商品群の包装技術を担当したが、ある時期から市乳の容器も担当しはじめた。そんな訳で、第2回目は、やはり飲用牛乳容器から話をはじめようと思う。

屋根型紙容器の始まり

 屋根型紙容器の市場への導入は、1960年代。米エクセロ社が屋根型の紙容器、いわゆるゲーブルトップカートンを考案し、同社製充填機が日本国内に導入された。1964年に十條製紙(現日本製紙)が技術提携し、充填機を販売していた。当時は、国内の大手製紙メーカーが新規事業として取り組み、自らの紙容器拡販のために、充填機を輸入販売していた。おりしも宅配からスーパーマーケットでの販売へと流通の変化があり、次第に定着し拡大した。
しかしながら、設備はと言うと、輸入機のためメンテナンス体制や取扱いやすさの向上が課題であり、乳業メーカーから国産機開発の要請をしていたところ、1977年、ロータリー式カップ充填機を製造していた四国化工機が充填能力2,500本/時の国産充填機を開発した。当時の明治乳業にも1984年に導入された。四国化工機は、1985年にはエクセロ社と販売代理店契約を結び、米国内での同社充填機拡販を図っていたのだった。

漏れは紙容器の宿命?

図1 ゲーブル容器ボトム部浸透箇所(内面)
図1 ゲーブル容器ボトム部浸透箇所(内面)

 当時から漏れ防止は、紙容器の永遠のテーマであったと思う。しかし、紙容器が漏れたら、まずは問題の解決を急ぐ必要性から、その場その場で個別対応しており、系統的に検討し、システマティックに考察されることはほとんどなかった。ただ、漏れ対策は古くて新しい課題として、なお存在していることは事実。
漏れという問題の解決は『安全・安心』を確保することにも繋がるので、私が現役時代に得た知見を少し述べたいと思う。
図1は、市場クレーム品を回収したものである。ボトム洩れでクレームとなったものである。この写真はボトム内面を示している。赤や青の色は容器内外面のポリエチレンにピンホールやクラックなどがあり、紙に浸透したことを示している(矢印部分)。

図2 ゲーブル容器ボトム部浸透箇所(外面)
図2 ゲーブル容器ボトム部浸透箇所(外面)

 図2は、ボトムの外面を示している。赤い染色液は内面から、青い染色液は外面からの浸透経路を示しており、両者が繋がると洩れがあったことを裏付けることになる。

詳細に分析していくと、着色した部分は、包材メーカーで罫線加工され、充填機で加熱や成形のために折り曲げられ、ポリエチレンや紙にダメージが与えられている。
紙容器内外面のポリエチレンは、加熱されると少なからず劣化し、折り曲げたり、衝撃が加わると、比較的容易にピンホールやクラックが発生する。さらにこの後、輸送や荷扱いによる振動、衝撃があると、これらが顕在化したり、拡大したりする。特に、ESL化により広域流通が増え、輸送による影響を、より以上に受けやすくなったと言える。

そんなに強く加熱しないで!

 充填機メーカーのシール状態評価基準は、米国の旧エクセロ規格に基づくものであり、カートン表面を広範囲に加熱しており、接着には関係のない部分、例えば罫線やコーナー部も加熱されていた。これでは過剰加熱であると言える。その当時は、充填機出口でチェックし、洩れなければOKとするケースが多く、問題は顕在化しにくかった。しかし、先ほど述べたとおり、過剰加熱により劣化したポリエチレンは、輸送後に洩れに繋がる可能性が非常に高い。また、原紙そのものも振動で皺が入ったりすると、からまった紙の繊維がほぐれ、特に紙の端面が露出している部分では液が浸透しやすく、洩れにつながる可能性がある。内容物が紙のサイズ剤と親和性のある場合はさらに浸透しやすい。一旦液が浸透すると、紙容器の強度は加速度的に低下していく。
ESL化が進むと、長距離の輸送ダメージを受けても洩れない容器を確保しなければならない。従来のアプローチ方法を改め、新しい考え方に基づいて改善していく必要が生じてきたわけである。

ボトム漏れの要因を整理すると

図3 ボトム漏れ要因のイメージ
図3 ボトム漏れ要因のイメージ

 図3に示したとおり、ボトム洩れを引き起こす要因は大きく分けて3つある。第一番目はポリエチレンの加熱が過剰であること。一般的な対処としては、洩れたらとにかく温度を上げるという傾向にあるが、これはまったく逆である。ボトムに関する限り、必要最低限の温度に抑えることが重要である。二番目に成形加工等によるダメージがあること。これはほとんど避けることができないが、罫線加工時の設備管理基準の適正化、原紙物性の管理等包材メーカーの品質管理が重要である。三番目には輸送ダメージが挙げられる。前述のようにESL化による長距離輸送の影響が大きい。これら3つの要因は、それぞれ単独でも問題となり得るが、3つが重なった時に最も洩れる可能性が高くなる。
中でも、加熱の要因の寄与率が最も高く、対策としては、加熱条件を必要最小限にすることで、洩れを未然に防止できる可能性があると考えられた。

三者一体のプロジェクトG

 前述のとおり、漏れがあるとそれへの対応に迫られ、再発防止のための是正処置がなされなかった。「流通での取扱いが悪かったため漏れた」「紙容器だからやむを得ない」「漏れは単発のもの」というあきらめにも似た風潮があったからだ
でも、先ほど述べたとおり、3つの要因のうち、流通でダメージを受けた場合、もし、既に潜在的なダメージがあると、より漏れに繋がりやすく、これは放ってはおけないだろう。
と言うことで、紙だからとあきらめず、しっかりと要因を見極めて根本原因をつぶす取組みを敢行したのである。それが、“プロジェクトG”と名付けた取組みである。お分かりだろうが、Gはゲーブルの頭文字から来ている。我々乳業メーカーと包材メーカー、充填機メーカー3者がチームを組んで取組みを実施したのだった。

さらに

 容器側からのアプローチとして、上市されたばかりのLLDPEも検討した。内面のLDPEをLLDPEに変えるのだ。強靱な物性は流通時の取扱いに対して有効だと思われた。しかし、シール強度が強いのが災いして、開封しづらくなってしまい、商品化をあきらめた経緯がある。でも、現在ならメタロセン触媒などが開発され、物性コントロールが可能と聞いている。まだまだ、検討の余地が残されているのではないか?充填機の加熱システムの改良も合わせて行った。適度な温度で適切な領域を加熱できる吹き出しノズルを、設備メーカーと協働で設計した。
漏れ対策は、ボトムだけではない。内容物の物性が絡んで、より複雑なトップ対策もある。トップ加熱装置の改善も検討したが、あまり故きを温ね過ぎてもいけないので、ここでは、触れないでおく。

最後に使い勝手は?

 新たな飲料容器として、ゲーブルトップカートンが導入され、市場が活性化されたのはいいが、馴れない容器に消費者は戸惑いを隠せなかった。開けにくいのである。このことは、当協会の青島顧問が執筆された「乳栓容器へ-11-」にも記載がある。その当時、協会でもプロジェクトを編成して検討したと聞く。現在は、こうした検討結果が生かされた容器が登場しているが、紙面の都合上、この話は次回に。

包装開発・温故知新 (第3回)

初めに

 前回は、飲用牛乳の紙容器について触れ、使い勝手についての課題解決の話は今回に譲った。
 屋根型の紙容器は、1960年代前半から使われ始めたが、市場に初めて登場した時は、馴れないことも手伝って、開けにくい容器の代表になってしまった。当時の乳栓容器協会でも、開封性改善のためのプロジェクトがあったことは既に述べた。
 開けにくい容器は、お客様にはストレス以外の何者でもない。ということで、今回は紙容器の開封性に関する話である。

容器の利便性向上

図1 発売当時(1973年:左上)と改良後(1981年:右下)のブルガリアヨーグルト容器
図1 発売当時(1973年:左上)と改良後
(1981年:右下)のブルガリアヨーグルト容器

 明治に容器包装開発組織が誕生するきっかけとなったのは、明治ブルガリアヨーグルトの容器改良である。ブルガリアヨーグルトの容器は、図1左上の通り、新発売時は屋根型容器であった。固形状のヨーグルトを屋根型容器から取り出すのは骨の折れる作業である。中身の取り出しやすさを改良し、1981年にその容器を図1右下に示した開口部の大きな新容器にリニューアルしたのである。

図2 ブルガリアのむヨーグルトのスパウト容器
図2 ブルガリアのむヨーグルトのスパウト容器
(かんたんハッチパック:1985年)

 そして、その4年後に開発された容器は、やはり前回も紹介した星野氏が手がけた「かんたんハッチパック」という屋根型容器である(図2)。これは、ブルガリアのむヨーグルトの容器で、実に今から30年以上前に、スパウト付きの容器を開発していたのである。このスパウトは、充填機で貼り付けるタイプで、スパウトアプリケーションの設備が必要であり、そこには、設備、包材に関わる知財の問題や独占契約などがあり、汎用品として普及しにくかったのが反省点だ。
 しかし、容器の利便性向上は、お客様の心を掴むという成功体験が、屋根型容器の開封性を始め、改良意欲を後押しした。これ以降しばらくは、牛乳などの飲料容器にスパウトがつけられることがなく、ようやく新容器が日の目を見るのは、それから約30年後となる。

ユーザーの本音を掴む

 当時、開発した容器の性能評価は、ユーザーに実際に使用してもらい、アンケート形式で評価する、いわゆる官能評価が主流だった。ある時期までは、何の疑いもなく実施して来た。
 しかし、この評価は主観評価と呼ばれるように、人の意識、感覚が影響する。例えば、複数容器の開け易さを官能的に評価する時、力学的には同じ値を示す場合でも、比較する容器の形状や色などの差からくる心理的要素が影響し、開けにくい(あるいは、開けやすい)と感じてしまうこともある。また、よくあることだが、テスト実施者がどこの会社か分からないようにしていても、被験者に謝礼を出すことが、心理的に影響し、手加減した結果を出す懸念が拭いきれない。ここから正確に結果を導き出し、ユーザーが本当にありのままで、正直に評価しているのかは、非常に複雑難解である。その結果の妥当性、信頼性には常に疑問がつきまとう。

客観的な評価の必要性

 社内的に、2009年頃からは、評価方法に客観性を求める傾向が強くなった。これは、社外に対する説明に説得力が必要だったからである。
 顧客である流通関係者や最終的なお客様への説得性はもちろんだが、その前に社内的な関門にパスするために、客観的な証拠を示す必要があったのもその理由の一つと言える。

感性工学とは

 容器の性能(主として使い勝手)を客観的に評価する方法を種々検討した。
 当時、既に食品のおいしさや嗜好などの“感性”をなんらかの理工学的手法で計測し、再現性や客観性の高い情報を得ることで、食品の開発に繋げる感性工学と呼ぶシステムが開発されつつあった。
 また、被験者が感じる快感、不快感を、その時の脳波を測定することによって定量化し、人に快適な生活用品(シャツなどの衣服、化粧品・整髪料、テニスラケットなど)を開発する感性工学技術もあったが、それぞれ難解で、簡単に利用できる可能性が低かった。
 試行錯誤の結果、生理計測手法、中でも表面筋電位を測定し、開封操作、持ち運び作業あるいは液体を注ぐ動作などを行う時に使用する筋肉にかかる負担度合いから、容器の使い勝手を評価出来ることを見いだした。

液体容器の開封性の向上

図3 開封性を改良した新容器(2013年)
図3 開封性を改良した新容器(2013年)

 かんたんハッチパック開発から28年が経過した2013年、「のむヨーグルト」の屋根型容器の開封性を改良した新容器を採用した。(図3)
 TTB(テトラトップベース)と呼ぶ日本テトラパック社が開発した紙容器である。この紙容器の特徴は、開封方法である。屋根型容器と異なり、天面にブリッジというひも状の部分が成形されており、ここを引き開けると開口部ができる。(図3右上写真参照)

 さらに、オーバーキャップがあり、再封可能なので、利便性が大幅に向上した。
 この翌年には、森永乳業、雪印メグミルクでも同様のスパウト付きの紙容器を採用。酪農乳業速報は、2014年の酪農乳業界重大ニュースで「白物乳飲料活性化へ、容器・容量で新たな動き」「価格から価値への動きが一気に生まれた」と紹介した。

新容器の客観的評価

図4 表面筋電位測定風景
図4 表面筋電位測定風景

 さっそく、TTB容器の開封性を含む使用性評価を実施した(図4)。被験者は、50代~60代の主婦。新容器は、キャップと内蓋の開封から、コップ1杯分注ぎ、キャップを閉めるまでの一連の動作を行い、対照として、屋根型容器を開封から口を閉じるまでの同様の動作を行った。
 動作の各項目について、動作時に動かす主な筋肉の表面筋電位計測を実施した。右4か所、左2か所、手もしくは腕の合計6部位の筋肉にセンサーを貼り付け計測し、得られた波形の積分値を筋負担の解析値として用いた。
合わせて主観評価も、5段階のアンケート方式で実施した。

解析結果は?

 開封から注ぎまでの一連の動作の結果、屋根型容器は、開封時に両手を使うので、左手の筋負担が有意に高くなった。
 人差し指を親指側に開く右手の筋負担では、TTBの方が有意に高い結果となった。これは、内蓋の開封や、キャップの開閉で指に力が入るためと推された。
 結果的には、表面筋電位による客観評価では、屋根型容器と新容器で総合的に大きな差はなく、採用を妨げる要素ななかった。
主観評価では、新容器は明らかに開けやすく、注ぎやすいと評価された。また、キャップによる再封は手間だが、屋根型容器に比べて、再封の安心感は極めて高かった。

最新の紙容器開発は?

 最新の飲料容器は。さらに改良されている。これもテトラ社開発容器で、TBUE(テトラブリックウルトラエッジ)である。こちらはTTBとは異なるシステムで、液面下シールタイプの容器である。新容器での発売は2016年9月、当初、開封するのに2アクション必要だったが、今年(2019年)、1アクションで開けられる新容器が登場した。これで、開封性の点で、やっとペットボトルに肩を並べたと言える。

太田 進(おおた すすむ)
1954年(S29年)生まれ 神戸大学農学部農芸化学科卒業、1977(S52年)年旧明治乳業株式会社(当時)入社、工場製造主任、研究所包装技術開発、本社技術部包装G、最終的に研究所PSC(パッケージング・ソリューションセンター)でセンター長を務める。2018年(H30年)独立し、サムズパッケージング研究所を創設し現在に至る。技術士(経営工学部門)、包装専士、包装管理士、ISO9001:2015審査員補。その他、ポリ衛協情報委員長、(公社)日本包装技術協会技術委員、JIS原案作成小委員会主査等を歴任