食品用器具・容器包装の規制と最近の動向

平成27年度の会員向けセミナーは2月23日(火曜日)「食品用器具・容器包装の規制と最近の動向」のテーマで厚生労働省山本基準審査課長にご講演頂きました。TPPの大筋合意など外的な環境の大きな変化が今後この領域にどのような影響を与えていくかは当協会会員の大きな関心事でもあり、タイムリーなものとなりました。当稿は山本課長の許可を頂いておこなった録音から書き起こしたもので文責は事務局にあることを最初におことわりしておきます。(TF)

最初に

本日のTOPICS

実は貴協会の今回のようなセミナーの開催頻度を毎月1回程度と思いこんでおりましたが、先程「年に1回です。」とお聞きしてそのような重要な機会に講演させて頂けるということで身の引き締まる思いがしております。本日の講演の内容ですが食品用器具・容器包装の規制の概要につきましては、既に皆様もよくご存知のことと思いますのでなるべく簡潔にさせて頂いた上で、昨年6月の食品用器具及び容器包装の規制のあり方に係わる検討会の中間取りまとめのお話しに移らせて頂ければと思っております。なお本日の私の講演の重要な目標の一つに講演を予定通りに終了して、皆様との貴重なコミュニケーションの場である懇親会を、同席させて頂いている課員共々活用させて頂ければと思っておりますのでよろしくお願い申し上げます。

食品用器具・容器包装の規制と外的環境

我々をとりまく環境について最初に触れさせていただくと、まず「超」のつく高齢化、そして少子化。また食品の世界ではもはや常識とされているグローバル化ですが、これは益々加速され、調達や物流が複数の国々をまたがってボーダレスで非常に速いスピードで行われる時代を迎えています。こういった状況のなかでどうやって最終製品の安全と品質を担保していくのかが求められています。企業経営の観点から言えば地球規模の視点も必要になってきているわけです。従来の国際機関のルールや2国間の取決めに加えて、先程の会長理事のお話しにもありましたように、昨年大筋合意したTPPのような複数国間の取決めも企業戦略にとって重要な要素となっております。一方で技術の進歩・高度化も進捗しており、ITを含め、色々な場面で企業や消費者の行動に影響を与えています。 一つの具体的な例として私共が関わっている輸入食品届出件数のグラフをご覧頂くと、総輸入重量がほぼ横ばいであるのに届出件数が継続的に増加を続けています。多品種小口化が進行したということであり、消費者ニーズの多様化とこれに対応するための流通技術等の進歩が多品種小口化を加速化していると考えられます。

 取り巻く環境 輸入食品届出件数の推移

行政の仕組みと取組

行政による食品安全施策の基本的な枠組みは基準作成(Rule Make)と監視指導(Rule Keep)そして一番大事とされているリスクコミュニケーションから構成されています。特に重要なことは消費者と事業者の方々に食品の安全やリスクを共有して頂き、これを共に担って頂くということです。これはなかなか地道であり、また、「言うは易く行うは難し」です。「科学的な根拠をベースにしながら国際的な基準との整合性を確保」する基準を作成し、従来の最終製品段階での検査だけではなくHACCPに代表されるような原材料からの各過程で安全が担保されるような基準・仕組みの最適化も必要です。

 食品安全施策の基本的な枠組み 「基準作成」についていえば

厚生労働省について

現在の食品安全に関する厚生労働省の組織はこの図の通りです。

リスク分配手法による食品安全の確保

既によくご存知のようにリスク分析手法による食品の安全の確保とは食品安全基本法等に基づく食品安全委員会によるリスク評価、食品衛生法等に基づくリスク管理、そして基本的にはステークホルダーが参加して行われるリスクコミュニケーションの構成で行われるものです。具体的な規格基準の策定のプロセスと関係省庁は以下の図の通りです。

また食品安全行政については消費者庁、食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省の役割分担によって消費者・事業者の方々も含めた有機的な連携を図っていく仕組みとなっておりますが、基準審査課に参りましてから1年間程の経験から言わせて頂ければ「なかなかうまくできているな。」というのが私の感想です。ご存知のように皆様の事業領域である乳、乳製品及びその類似食品の容器包装の規格基準である乳等省令と食品一般の容器包装を対象とする告示第370号の関係は以下の図に示す通りとなっております。

 規格基準と食品衛生法・食品安全基本法 乳、乳製品及びその類似食品の容器包装の規格基準の関係

「中間取りまとめ」に至る経緯

HACCPは7原則12手順に沿って進めます①

昨年6月に発表された「食品用器具及び容器包装の規制のあり方に係わる検討会」の中間取りまとめですが、この検討の背景として米国、EUで実施されている規制制度がその規制手法の違いこそあれ、ポジティブリストに依っているのに対して日本の規制は基本的にネガティブリストに依っていることが挙げられます。また行政の規制に加えて、市場において食品用器具及び包装の安全を担保することに大きな役割を果たしてきたのは業界等によって構築されたポジティブリストの自主基準であるということも言えると思います。

先程来述べている環境の変化のなかでこの規制のあり方がどうあるべきかということが課題として捉えられるようになってきました。この検討をすすめるためには食品用器具及び容器包装の現状をよく踏まえること、すなわち、原材料から容器包装の製品、さらに消費者にとっての最終製品である食品に至るまでの、事業者間の製造の流れや工程管理、材質別の特性などの視点が不可欠になると思われます。なお中間取りまとめに至るまでの厚生労働省等の検討経過は以下の通りです。

 食品容器具及び容器包装の現状 経緯

中間取りまとめの内容

中間取りまとめの内容ですが以下の6項目から構成されています。具体的にはPL(ポジティブリスト)移行のための課題を3項目に整理しています。
―まず(1)リスク管理すべき化学物質については、1500以上に及ぶとされている器具容器包装の原材料に使用されている化学物質の種類、毒性等が必ずしも網羅的に把握されていないことから幅広い情報収集と整理、そして効率的な情報収集のための必要なデータの検討
―(2)の企業間における情報提供について原材料製造企業から製品製造企業への原材料や化学物質の情報の適切な情報の伝達を担保するために原材料購入時に情報の提供を含めて契約を行うことや現行の3衛協の確認証明制度の活用も視野に入れながら、輸入品や会員外も含めた「オールジャパン」のシステムの構築
―(3)事業者による適切な製造管理とトレーサビリティを含めた実効的な履行確保のために事業者が取り組むべき事項について行政がガイドラインを提示する一方で効果的な検査のための最新で国際標準を踏まえた分析法の開発等が挙げられています。

 課題の整理 課題及び対応(1)

 課題及び対応(2) 課題及び対応(3)

自主管理ガイドライン

一方で器具及び容器包装に係わる安全性の更なる確保にはPL化の検討が望ましいとしながらもそのシステムの導入に向けた課題は多いので将来的なPL制度の導入を見据えて3項目それぞれについて当面の施策として具体的な提案を行っています。特に(3)に関連してはGMP(Good Manufacturing Practice 適正製造規範)にあたる自主管理ガイドラインについて厚生労働科学研究により有識者や業界団体の代表者のグループで検討が進められています。その検討結果を踏まえ来年前半までには自主管理ガイドラインを通知として発出する予定です。そして、事業者による自主管理の状況も踏まえながら、最終的には法制化も含めて検討していくこととしています。

 当面の施策について 当面の対応について